「こだわり」は「強み」になる!知的障害のある方の才能を活かす仕事の見つけ方

「この子に合う仕事なんて、あるのだろうか」「特別支援学校を卒業した後の未来が、全く見えない」。知的障害のある方やそのご家族にとって、「働く」というテーマは、希望であると同時に、大きな不安を伴うものかもしれません。情報が溢れる一方で、わが子、あるいは自分自身にとっての具体的な道筋が描けず、途方に暮れてしまう。その気持ちは、決して特別なものではありません。

この記事は、そのような漠然とした不安の霧を晴らし、未来を照らすための一つの「地図」となることを目指しています。単に選択肢を並べるのではなく、一人ひとりの個性という「現在地」から、その人らしい「働くカタチ」という目的地まで、どのように道を歩んでいけばよいのかを、具体的かつ丁寧に解説します。

まず「どんな仕事があるか」の前に考えるべきこと

多くの場合、私たちは「どんな仕事があるのか」「どんな作業所があるのか」という外側の情報から探し始めがちです。しかし、最も大切なのは、本人の内側にある「好き」や「得意」という宝物を、まず見つめ直すことです。それが、後悔しない選択をするための、最も確かなコンパスとなります。

「好き」と「得意」を見つけるヒント

「得意なことは?」と聞かれても、すぐに答えられないかもしれません。大切なのは、日常生活の中にある小さなサインを見逃さないことです。

  • 何をしている時に、集中していますか?:静かな場所で黙々とブロックを組み立てる、音楽を聴きながら体を動かす、植物に水をやる。その「没頭できる時間」に、得意の種が隠されています。
  • どんなことで、人を笑顔にしましたか?:「ありがとう」と言われて嬉しそうだったのはどんな時でしょう。きれいに畳んだ洗濯物、丁寧に運んだお皿。誰かの役に立つ喜びは、大きなモチベーションになります。
  • 「こだわり」を「強み」と捉え直す:毎日同じ手順で物事を進める「こだわり」は、見方を変えれば、正確なルーティンワークをこなせる「強み」です。特定のキャラクターや物への強い興味は、関連する作業への並外れた集中力に繋がる可能性を秘めています。

本人の言葉にならない声を聴く「意思決定支援」

言葉でうまく希望を伝えられない場合でも、本人は自分なりの意思を持っています。それを周囲が丁寧に汲み取り、選択肢を具体的に示すことで、本人が「自分で選んだ」という実感を持てるように支援すること。これを「意思決定支援」と呼びます。例えば、「Aの作業所とBの作業所、どっちがいい?」と抽象的に聞くのではなく、それぞれの場所で撮った写真や動画を見せ、「こっちのパンの匂いがする場所と、こっちの静かな場所、どっちが心地よい?」と五感に訴える問いかけをする。こうした小さな工夫の積み重ねが、本人主体の選択を実現します。

「働く」の全体像を知る:4つの選択肢とそれぞれの役割

本人の特性という「現在地」がおぼろげながら見えてきたら、次は社会にある「働く」という選択肢の全体像、つまり地図を広げてみましょう。これらは優劣ではなく、目的や役割が異なるものです。

自分のペースで歩む道:就労継続支援B型

一般的に「作業所」と呼ばれることが多いのが、このB型事業所です。雇用契約を結ばず、体調や精神的な状態に合わせて、比較的自由なペースで通えるのが最大の特徴です。まずは「働くことに慣れる」「日中の居場所を見つける」といった目的で利用を開始する人が多く、全ての就労支援の入り口とも言える場所です。活動の対価として「工賃」が支払われます。

サポートを受けながら社員を目指す道:就労継続支援A型

事業所と雇用契約を結び、最低賃金以上の「給料」を受け取りながら働く場所です。B型よりも、より一般就労に近い形態と言えます。週20時間以上の勤務など、一定の条件がありますが、安定した収入を得ながら、必要なサポートを受けられるというメリットがあります。B型で経験を積み、自信をつけてからA型へステップアップするケースも多く見られます。

一般企業への架け橋となる道:就労移行支援

最長2年間という期間の中で、一般企業で働くために必要な知識やスキルを訓練する場所です。ビジネスマナーやパソコンスキルを学んだり、企業での実習を行ったりします。「将来は会社で働きたい」という明確な目標がある場合に、その夢を実現するための準備を整える、まさに「架け橋」の役割を担います。

企業の一員として働く道:一般就労(障害者雇用枠・特例子会社)

企業に直接雇用され、他の社員と共に働くスタイルです。障害のある方を対象とした「障害者雇用枠」での就労や、障害者雇用を目的として設立された「特例子会社」での就労などがあります。給与や待遇は企業の規定によりますが、社会の一員としての責任とやりがいを最も感じられる働き方です。就労移行支援などを経て、このステージに進むのが一般的なルートです。

仕事の世界を覗く:具体的な作業内容と環境

では、特に多くの方が利用する就労継続支援事業所(作業所)では、具体的にどのような仕事が行われているのでしょうか。本人の特性と結びつけながら、いくつか例を見てみましょう。

コツコツと取り組むことが力になる仕事

静かな環境で、自分のペースで集中したい方に向いています。目に見える成果が、達成感につながります。

  • 軽作業:自動車部品の組み立て、パンフレットの封入、商品のシール貼り、お菓子の箱詰めなど。正確さや丁寧さが活かされます。
  • データ入力:紙のアンケート結果などを、パソコンのフォーマットに入力する作業。PC操作が得意な方に適しています。
  • 清掃・メンテナンス:施設内の廊下やトイレの清掃、ベッドメイキングなど。空間をきれいにすることで、人に感謝されるやりがいがあります。

人や社会とのつながりが喜びになる仕事

人と関わることや、体を動かすことが好きな方に向いています。チームで何かを成し遂げる喜びを感じられます。

  • 食品加工・調理補助:パンやお菓子の製造、お弁当の盛り付け、野菜のカットなど。作ったものが商品になる喜びがあります。
  • 農作業・園芸:野菜やハーブの栽培、収穫、袋詰め、花の世話など。自然と触れ合うことが、心の安定につながることもあります。
  • 接客・販売補助:事業所で作った製品を販売する店舗での品出しやレジの補助など。お客様からの「ありがとう」が直接の力になります。

「工賃」と「給料」について知っておくべきこと

B型で支払われる「工賃」は、労働の対価である「給料」とは異なり、生産活動から経費を差し引いたものを分配する仕組みです。そのため、金額は最低賃金を下回ることが一般的です。厚生労働省の令和4年度の調査によると、B型の平均工賃は月額17,031円です。しかし、この数字はあくまで平均であり、事業所の仕事内容や方針によって大きく異なります。近年は工賃向上に力を入れる事業所も増えています。大切なのは金額の多寡だけでなく、本人がやりがいを感じ、安定して通い続けられるかどうかです。

後悔しない事業所の見つけ方:3つの実践ステップ

地図を広げ、仕事の世界を覗いたら、いよいよ実際に歩む道を選ぶステップです。焦らず、一つひとつ丁寧に進めていきましょう。

ステップ1:地図を広げる(情報収集)

まずはお住まいの市区町村の障害福祉課の窓口や、Webサイトで、どのような事業所があるのかリストアップしてみましょう。「WAM NET(ワムネット)」のような福祉・保健・医療の総合情報サイトで、地域やサービス内容を絞って検索するのも有効です。この段階では、絞り込みすぎずに広く情報を集めることがポイントです。

ステップ2:実際に歩いてみる(見学・体験)

リストアップした中で気になる事業所があれば、必ず見学や体験利用を申し込みましょう。パンフレットだけでは分からない、最も重要な「空気感」を肌で感じるためです。以下の点を、本人と一緒に確認してみてください。

  • 働いている人の表情は?:利用者の方々は落ち着いて作業に取り組んでいますか? 楽しそうに会話する時間はありますか?
  • 職員の関わり方は?:困っている人に、どんな風に声をかけていますか? 高圧的ではなく、丁寧な言葉遣いですか?
  • 環境は合っているか?:騒音や匂いは気になりませんか? 整理整頓はされていますか? 本人が「ここにいると心地よい」と感じられるかが何より重要です。

ステップ3:信頼できる道案内役と歩む(相談支援)

これらのプロセスを、本人と家族だけで進める必要はありません。「相談支援事業所」にいる「相談支援専門員」は、まさにこうした道探しをサポートするプロフェッショナルです。本人や家族の希望を聞き、様々な事業所の情報を提供し、見学に同行してくれることもあります。福祉サービスを利用するための「サービス等利用計画」の作成も担う、心強いパートナーです。

未来への展望:ステップアップという可能性

「一度B型に入ったら、ずっとそのままなのだろうか?」そんなことはありません。B型事業所は終着点ではなく、次のステージへ向かうための大切な拠点になり得ます。

成長を支える仕組み

多くの事業所では、「個別支援計画」を定期的に見直します。これは、本人の成長や意欲の変化に合わせて、目標やサポート内容を更新していくためのものです。例えば、「作業の集中時間が長くなったから、少し難しい工程に挑戦してみよう」「A型事業所に興味が出てきたから、見学に行ってみよう」といったように、小さな成功体験を積み重ねながら、次のステップを具体的に計画していきます。また、企業での実習や就職後の定着を支援する「ジョブコーチ」といった専門家のサポートを活用することも可能です。

大切なのは、「ステップアップ=善」と決めつけないこと。本人がB型事業所での活動にやりがいと安心感を見出し、そこに通い続けることが最も幸せな選択である場合も、もちろんあります。あくまで本人の意思とペースを尊重し、未来の選択肢を常に開いておく。その姿勢が、本人の可能性を最大限に引き出すのです。

はじめの一歩を踏み出すために

知的障害のある方の「働く」を考える旅は、すぐに答えが見つかる簡単なものではないかもしれません。しかし、暗闇の中を手探りで進む必要はありません。本人の中にある「好き」「得意」という光を頼りに、社会にある多様な道を照らし、信頼できる案内役と共に歩めば、必ずその人らしい働き方へと続く道は見つかります。

もし今、何から始めればよいか分からないと感じているなら、まずはお住まいの地域の「相談支援事業所」や市区町村の障害福祉担当窓口に、一本電話をかけてみてください。「知的障害のある家族の、就労について相談したいのですが」――その一言が、未来を拓くための、確かな第一歩となるはずです。

この記事の筆者・監修者

筆者

Findcare編集部

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