
「うちの子、本を読むのがすごく遅いし、間違いも多いみたい…」「授業中もそわそわして集中できないって先生に言われた…」そんなお悩みを抱えていませんか?もしかしたら、お子さんはADHD(注意欠如・多動症)とディスレクシア(読み書き困難)の両方の特性を併せ持っているのかもしれません。
この記事では、ADHDとディスレクシアが併存する場合の理解と、家庭や学校でできる具体的なサポートについて、分かりやすく解説します。一人で悩まず、正しい知識を得て、お子さんへのより良い関わり方を見つけていきましょう。
ADHD(注意欠如・多動症)ってどんな特性?
ADHD(Attention-Deficit Hyperactivity Disorder)は、不注意(集中力を持続しにくい、忘れ物が多いなど)、多動性(じっとしていられない、おしゃべりが止まらないなど)、衝動性(順番を待てない、考えずに行動してしまうなど)といった特性が、生活や学習において困りごととして現れる発達障害の一つです。
- 不注意:細かいミスが多い、話を聞いていないように見える、物をなくしやすい、順序立てて行動するのが苦手。
- 多動性:座っていても手足をそわそわ動かす、席を離れてしまう、静かに遊べない。
- 衝動性:質問が終わる前に答えてしまう、他の子の邪魔をしてしまう、危険な行動を衝動的にしてしまうことがある。
大切なのは、これらの行動は本人の怠慢やしつけの問題ではないということです。脳の機能的な特性によるものであり、本人は一生懸命やろうとしても、コントロールが難しいのです。また、知的な遅れがあるわけではありません。
ディスレクシア(読み書き困難)ってどんな特性?
ディスレクシアは、知的な発達に遅れはないものの、文字を読むことや書くことに特異的な困難がある学習障害の一つです。文字が歪んで見えたり、文章をスムーズに読むことが難しかったり、文字の形を正確に思い出すのが苦手だったりします。
- 文字を読むのが非常に遅い、または読み間違えが多い(例:「め」と「ぬ」、「わ」と「ね」など形が似た文字を混同する)。
- 文章を読んでも内容を理解するのが難しい(読むことにエネルギーを使い果たしてしまうため)。
- 文字を書くときに、鏡文字になったり、漢字の部首を間違えたり、形を整えて書くのが難しい。
- 文章を構成したり、自分の考えをまとめて書いたりするのが苦手。
ディスレクシアも、本人の努力不足や知能の問題ではありません。視覚情報や音声情報を処理する脳の働き方に違いがあると考えられています。早期に気づき、適切なサポートを行うことが非常に重要です。
なぜADHDとディスレクシアは併発しやすいの? 関係性と見分け方
実は、ADHDとディスレクシアは併存することが少なくありません。研究によっては、ADHDのある人のうち25%~40%がディスレクシアを、またディスレクシアのある人のうち同じく25%~40%がADHDを併せ持つと報告されています。
両者に共通して関わっていると考えられているのが、脳の実行機能(目標を立てて計画し、行動を調整する力)の課題です。ADHDでは主に注意のコントロールや行動の抑制に関連する実行機能の弱さが見られ、ディスレクシアでは文字や音声を処理する特定のスキルに加えて、ワーキングメモリ(情報を一時的に記憶し処理する力)などの実行機能の課題が読字困難に影響していると考えられています。つまり、土台となる部分で共通の課題があるため、併存しやすいのです。
では、併存している場合、行動や困難さはどのように現れるのでしょうか?
注意散漫さの違い
どちらの特性があっても、子どもは「注意散漫だ」と見えることがあります。しかし、その理由は異なります。
- ADHDが主な場合:周囲の刺激に気を取られやすく、一つのことに集中し続けるのが難しい。
- ディスレクシアが主な場合:読むことに非常に大きな努力が必要なため、すぐに疲れてしまい、集中が途切れて他のことを考え始める(ように見える)。
学習面でのつまずきの違い
「読むのが苦手」という点でも、背景が異なることがあります。
- ADHDが主な場合:集中が続かず行を飛ばして読んだり、結末を急いで勝手に読んでしまったりする。ケアレスミスも多い傾向があります。
- ディスレクシアが主な場合:一つ一つの文字を音にするのに時間がかかったり、単語を読み間違えたりする。流暢に読むことが難しいため、内容理解も困難になりがちです。
書くことの困難さの違い
書字に関しても、困難さの質が異なります。
- ADHDが主な場合:考えをまとめるのが苦手で文章構成がうまくできない、ケアレスミスで誤字脱字が多い、宿題を最後までやり遂げるのが難しい。
- ディスレクシアが主な場合:文字の形を思い出すのが難しい、綴りや文法の間違いが多い、書字のスピードが極端に遅い。
ポイント:どちらか一方の特性だけでなく、両方の特性がどのように影響し合っているのかを理解することが、適切なサポートにつながります。
「うちの子もしかして?」家庭や学校で見られるサインと気づきのポイント
以下のようなサインが複数見られる場合、一度専門家への相談を検討してみてもよいかもしれません。
- 年齢相応のレベルの文章を読むのを極端に嫌がる、または読んでも内容をほとんど理解していない。
- 板書を写すのに時間がかかりすぎる、または誤字脱字が非常に多い。
- 話を聞いている途中で他のことに注意がそれてしまうことが頻繁にある。
- 忘れ物や失くしものが多く、片付けや整理整頓が極端に苦手。
- 宿題や課題を最後までやり遂げるのに非常に時間がかかる、または途中で投げ出してしまう。
- じっとしているのが苦手で、授業中や食事中に席を立ってしまうことがある。
- 友達との会話で、相手の話を最後まで聞かずに話し始めてしまうことがある。
「まだ小さいから」「そのうちできるようになる」と様子を見ることも一つの選択ですが、もし親御さんが強い不安を感じたり、お子さん自身が困っている様子が見られたりする場合は、専門機関に相談することで、適切なサポートへの道が開けることがあります。
不安を感じたらどこに相談すればいい?日本の診断プロセスと専門機関
「どこに相談したらいいの?」と悩む方も多いでしょう。以下のような相談先があります。
- かかりつけの小児科医:まずは身近な医師に相談し、必要に応じて専門機関を紹介してもらう。
- 学校の先生・スクールカウンセラー・特別支援教育コーディネーター:学校での様子をよく知る先生方に相談し、校内の支援体制や地域の情報について教えてもらう。
- 市町村の教育相談窓口・子育て支援センター・児童発達支援センター:公的な相談機関で、専門家によるアドバイスや検査、支援プログラムの紹介などを受けられることがあります。
- 専門の医療機関:小児神経科医、児童精神科医、発達外来のある病院など。ADHDの診断は主に医師が行います。
- 教育・心理の専門機関:ディスレクシアの評価や指導は、言語聴覚士や臨床心理士、教育専門家などが関わることがあります。
診断は、問診(親子からの聞き取り)、行動観察、心理検査、知能検査、読み書き検査などを総合的に行い、慎重に判断されます。ADHDとディスレクシアの診断は、それぞれ異なる基準で行われるため、両方の評価が必要になることもあります。
診断は終わりではなく、お子さんの特性を理解し、適切なサポートを始めるためのスタートラインです。
ADHDとディスレクシアのある子どもへの具体的なサポート戦略
診断を受けたら、お子さんの特性に合わせたサポートを考えていきましょう。家庭、学校、専門機関が連携することが大切です。
家庭でできる環境調整と学習サポート
- 集中しやすい環境づくり:勉強する場所は、テレビやおもちゃなど気が散るものを減らし、静かで落ち着ける環境を整える。
- 視覚的なサポートの活用:指示は短く具体的に伝え、言葉だけでなく絵や図、リストなど目に見える形で示すと理解しやすくなります。タイマーを使って時間の見通しを持たせるのも効果的です。
- 読み書きの負担を減らす工夫:
- 教科書や本を読むのが辛い場合は、読み上げソフトや音声教材を活用する。
- 文字を書くのが苦手な場合は、パソコンやタブレットの音声入力機能を使ってみる。
- 太字や大きなフォントの教材、行間が広い教材を選ぶ。
- 一度にたくさんの量をこなそうとせず、短い時間で区切って休憩を挟む。
- スモールステップで成功体験を:いきなり高い目標を設定せず、少し頑張れば達成できる小さな目標を立て、クリアする喜びを積み重ねられるようにする。
- 努力を具体的に褒める:「計算が全部合ってたね!」という結果だけでなく、「最後まで諦めずに頑張ったね」「丁寧に字を書こうとしていたね」など、努力の過程を具体的に言葉にして褒めましょう。
学校との連携と合理的配慮
- 担任の先生や特別支援教育コーディネーターと密に情報交換を行い、お子さんの特性や家庭での工夫を共有する。
- 学校生活での困難を軽減するための合理的配慮を相談する。例えば、
- 座席の位置を配慮してもらう(先生の近く、刺激の少ない場所など)。
- テストの時間を延長してもらったり、別室で受けさせてもらったりする。
- 板書の代わりにプリントを用意してもらったり、タブレット端末の使用を許可してもらったりする。
- 読みやすいフォントの教材を用意してもらう。
- 必要に応じて、通級指導教室(LD・ADHD等対象)の利用を検討する。そこでは、個別の課題に応じた専門的な指導を受けられます。
専門的な療育やトレーニング
- ADHDに対して:
- 行動療法(ペアレントトレーニング):保護者が子どもへの適切な関わり方を学び、好ましい行動を増やすためのスキルを身につけます。
- ソーシャルスキルトレーニング(SST):集団の中で、コミュニケーションスキルや感情コントロールの方法を学びます。
- ディスレクシアに対して:
- 音韻認識トレーニング:言葉の音の最小単位(音素)を聞き分けたり、操作したりする力を養います。
- 体系的な読み書き指導プログラム:文字と音の関係をルールに基づいて丁寧に教え、読み書きの基礎を系統的に積み上げていく指導(例:オータン・ギリンガム・アプローチの考え方を取り入れた指導など)。
薬物療法について(ADHDの場合)
ADHDの特性のうち、特に不注意や多動性・衝動性が著しく、日常生活や学習に大きな支障が出ている場合には、医師の判断により薬物療法が検討されることがあります。薬は特性を根本的に治すものではありませんが、集中しやすくなったり、衝動的な行動を抑えやすくなったりする効果が期待できます。必ず専門医とよく相談し、効果や副作用について十分に説明を受けた上で進めることが大切です。
一番大切なこと:子どもの自己肯定感を育む関わり方
ADHDやディスレクシアのある子どもたちは、周りの子と同じようにできない経験を積み重ねる中で、知らず知らずのうちに自信を失い、「自分はダメなんだ」と感じてしまいがちです。
サポートにおいて最も大切なのは、子どもの自己肯定感を育むことです。
- 結果だけでなく努力の過程を認める:「頑張ったね」「粘り強く取り組んだね」と、本人の努力そのものを具体的に褒めましょう。
- 「できないこと」より「できること」「得意なこと」に目を向ける:誰にでも得意なこと、好きなことがあります。それを見つけて伸ばしてあげることで、自信につながります。
- 学業以外の活動で輝ける場を見つける:スポーツ、音楽、絵画、工作など、本人が夢中になれる活動は、大きな心の支えになります。学校以外の場で「自分はできる!」という経験を積むことが大切です。
- 「あなたはあなたのままで素晴らしい」というメッセージを伝え続ける:無条件の愛情を伝え、安心できる居場所を作りましょう。
- 親自身も抱え込まない:保護者の方も、一人で悩みを抱え込まず、専門家や支援者、同じ悩みを持つ親の会などに相談し、サポートを求めることが大切です。親御さんの心の安定がお子さんの安定にも繋がります。
大人のあなたがADHDやディスレクシアに気づいたなら
この記事を読んでいる方の中には、「もしかして自分も…?」と感じている大人の方もいらっしゃるかもしれません。大人になってからADHDやディスレクシアの特性に気づくことは珍しくありません。
もし長年、仕事でのミスが多い、集中力が続かない、文章を読むのが極端に苦手、といった困難を抱えているなら、一度専門機関に相談してみるのも一つの方法です。
- 困難の理由がわかることで、自分を責める気持ちが和らぎ、自己理解が深まります。
- 自分の特性に合った対処法や工夫を見つけることで、仕事や日常生活の困難を軽減できる可能性があります。
- 職場での合理的配慮や、キャリア選択について考えるきっかけにもなります。
相談窓口としては、発達障害者支援センターや、大人の発達障害を専門とするクリニックなどがあります。
まとめ:可能性を信じて、一歩ずつ前へ
ADHDとディスレクシアは、決して珍しい特性ではありません。併存することで困難さが複雑になることもありますが、それぞれの特性を正しく理解し、本人に合った適切なサポートを行うことで、困難を軽減し、その人らしい力を発揮していくことは十分に可能です。
大切なのは、一人で悩まず、専門家や周りの人たちのサポートを積極的に活用すること。そして、お子さん(あるいはご自身)の可能性を信じ、焦らず一歩ずつ、できることから取り組んでいくことです。この記事が、そのための小さな一歩となれば幸いです。