ADHDと読書:集中できない?内容が頭に入らない?原因と具体的な対策を徹底解説

「読書に集中できない」「何度も同じ行を読んでしまう」「読んだ内容が記憶に残らない」——。ADHD(注意欠如・多動症)の特性を持つ方の中には、こうした読書の悩みを抱えている方が少なくありません。この記事では、ADHDの特性がなぜ読書に影響を与えるのか、そして子供から大人まで、今日から実践できる具体的な対策や工夫を分かりやすく解説します。

読書は知識を深め、世界を広げる素晴らしい手段です。この記事が、読書のバリアを少しでも低くし、より豊かな読書体験を得るための一助となれば幸いです。

なぜADHDがあると読書が難しく感じることがあるの?主な3つの理由

ADHDの特性と読書の困難さには関連があると考えられています。ここでは、主な理由を3つのポイントで見ていきましょう。

  • 1. 注意を持続させることの難しさ(不注意特性)ADHDの主な特性の一つに「不注意」があります。読書中に他のことに気を取られやすかったり、興味のない内容だと集中力が途切れやすくなったりすることがあります。結果として、文章を目で追っていても内容が頭に入ってこない、という状況が起こり得ます。
  • 2. 情報の一時的な保持と処理の難しさ(ワーキングメモリの課題)読書は、読んだ情報を一時的に記憶し(ワーキングメモリ)、それらを繋ぎ合わせて内容を理解していく作業です。ADHDのある人の中には、このワーキングメモリの働きに課題がある場合があり、文章の前後関係を把握したり、登場人物や要点を記憶したりすることが難しいと感じることがあります。
  • 3. 静かに座っていることへの苦手意識(多動性・衝動性特性)特に多動性・衝動性の特性が強い場合、長時間じっと座って読書をすること自体が苦痛に感じられることがあります。そわそわしたり、他のことをしたくなったりすることで、読書への集中が妨げられる可能性があります。

これらの特性は、本人の努力不足や能力の問題ではなく、脳機能の違いによるものです。特性を理解し、適切な工夫を取り入れることで、読書の困難さは軽減できる可能性があります。

【子供編】読書が好きになる!親子で取り組める7つのサポート戦略

子供にとって読書は、学習の基礎となるだけでなく、想像力や共感力を育む大切な活動です。ADHDの特性を持つお子さんが読書を楽しめるようになるための、具体的なサポート戦略をご紹介します。

  1. ステップ1:安心できる読書環境を作る

    まずは、お子さんが落ち着いて読書に取り組める環境を整えましょう。テレビやゲームなど、気が散るものが視界に入らない静かな場所を選びます。また、「読みなさい!」と強制するのではなく、リラックスして本に触れられる雰囲気作りが大切です。

  2. ステップ2:子供の「好き!」から本を選ぶ

    恐竜、宇宙、動物、乗り物など、お子さんが心から興味を持てるテーマの本を選びましょう。図鑑や写真が多い本、仕掛け絵本などもおすすめです。「読まなければならない本」よりも「読みたい本」から始めることが、読書へのモチベーションを高めます。

  3. ステップ3:一緒に読む、声に出して読む楽しさを伝える

    親子で一緒に声に出して読んだり、役割分担して読み聞かせをしたりするのも効果的です。文字を読むだけでなく、登場人物の気持ちを想像したり、物語の展開を予想したりする中で、読書の楽しさを共有できます。音読は、内容の理解を助ける効果も期待できます。

  4. ステップ4:読み方の小さな工夫を取り入れる

    文章のどこを読んでいるか分からなくならないように、指で文字を追いながら読んだり、リーディングルーラー(読み取りづらい行を隠す定規のようなもの)を使ったりするのも良いでしょう。また、長い文章は段落ごとや数ページごとに区切って、少しずつ読み進めるのも集中力を保つコツです。

  5. ステップ5:「どう思った?」対話で理解を深める

    読んだ後に、「どんなお話だった?」「どこが面白かった?」「〇〇ちゃんはどう思った?」などと質問を投げかけ、内容について話し合う時間を作りましょう。自分の言葉で説明することで、理解が深まり、記憶にも残りやすくなります。

  6. ステップ6:オーディオブックや読み上げソフトを活用する

    文字を読むことに困難を感じる場合は、オーディオブック(朗読された本)や、テキストを音声で読み上げてくれるソフトを活用するのも有効な手段です。耳から情報を得ることで、物語の世界に入りやすくなるお子さんもいます。

  7. ステップ7:「できた!」を積み重ね、自信につなげる

    短いお話でも一冊読み終えたら、「最後まで読めたね!すごいね!」と具体的に褒めてあげましょう。小さな成功体験を積み重ねることが、読書への自信と意欲につながります。

【大人編】読書と上手に付き合うための7つの実践テクニック

大人のADHD当事者にとっても、読書は仕事や学習、趣味など様々な場面で重要です。集中力を保ち、内容を理解するための実践的なテクニックをご紹介します。

  1. テクニック1:読書の目的を明確にする

    「何のためにこの本を読むのか?」を最初に明確にしましょう。資格取得のため、情報収集のため、あるいは純粋な楽しみのためなど、目的がはっきりすることで、読むべきポイントや集中すべき箇所が定まりやすくなります。

  2. テクニック2:自分に合った読書スタイルを見つける

    静かな場所で黙読するのが合う人もいれば、少し雑音があるカフェのような場所の方が集中できる人もいます。また、内容を理解するために声に出して読む(音読する)、歩きながら読むといった方法が有効な場合もあります。時間帯も、朝の集中しやすい時間や、夜のリラックスした時間など、自分にとって最適なタイミングを探してみましょう。

  3. テクニック3:集中をコントロールする工夫

    長時間集中するのが難しい場合は、タイマーを使って25分読んで5分休憩する「ポモドーロテクニック」などを試してみましょう。また、読書中に浮かんできた別の考え事(To Doなど)は、一旦メモに書き出して脇に置いておくことで、目の前の読書に意識を戻しやすくなります。

  4. テクニック4:記憶に定着させるアウトプット

    読んだ内容を記憶に定着させるためには、アウトプットが効果的です。重要な箇所に線を引いたり、付箋を貼ったりするだけでなく、読後に内容を数行で要約してみる、学んだことを誰かに話してみる、感想をSNSやブログに書くなど、様々な方法があります。

  5. テクニック5:デジタルツールを賢く活用する

    電子書籍リーダーは、文字の大きさやフォント、行間を調整できるため、読みやすさをカスタマイズできます。また、オーディオブックは、移動中や家事をしながらでも「ながら読書」ができるメリットがあります。ノイズキャンセリング機能付きのイヤホンを使い、周囲の音を遮断して読書に集中するのも良いでしょう。

  6. テクニック6:誘惑を断ち、環境を整える

    スマートフォンやパソコンの通知はオフにし、読書中は手が届かない場所に置くなど、集中を妨げる要因を物理的に遠ざけましょう。また、自分が心地よいと感じる照明や室温、座り心地の良い椅子など、読書に没頭できる環境を整えることも重要です。飲み物を用意しておくのも良いでしょう。

  7. テクニック7:自分を理解し、受け入れる

    全ての本を完璧に理解しようとしたり、速く読もうとしたりする必要はありません。時には途中で読むのをやめても良いですし、飛ばし読みをしても構いません。自分の特性を理解し、無理のないペースで読書と付き合っていくことが大切です。疲れたら無理せず休憩しましょう。

読書を楽しむために共通して大切なこと

子供も大人も、ADHDの特性の有無に関わらず、読書をより豊かなものにするために共通して心がけたいポイントがあります。

  • 自分に合った方法を見つける試行錯誤を大切に:この記事で紹介した以外にも、様々な工夫があります。色々と試してみて、自分にとって最も効果的な方法を見つけ出すことが重要です。
  • 小さな成功体験を積み重ねる:最初から高い目標を設定せず、短い文章や興味のある記事を読むことから始めてみましょう。「読めた」「分かった」という小さな達成感が、次の読書への意欲につながります。
  • 完璧を目指さない:全てを理解できなくても、一部でも何か新しい発見や学びがあれば十分です。楽しむことを優先しましょう。
  • 必要であれば専門機関に相談も:読書の困難さが日常生活や学業、仕事に大きな支障をきたしている場合は、医療機関やカウンセラー、発達障害者支援センターなどの専門機関に相談することも考えてみましょう。より専門的なアドバイスやサポートが得られることがあります。
ADHDの特性による読書の困難さは、適切な理解と工夫によって乗り越えていくことができます。この記事で紹介した情報が、少しでも皆さんの読書ライフをサポートできれば幸いです。読書を通じて、新しい知識や感動、そして楽しさを見つけてください。

この記事の筆者・監修者

筆者

山口さとみ (臨床心理士)

山口さとみ (臨床心理士)

臨床心理士として、多くの方々や子どもたちとそのご家族のサポートをしてきました。医学的な情報だけでなく、日々の生活の中での工夫や、周囲の理解を深めるためのヒント、そして何よりも当事者の方々の声に耳を傾けることを大切にしています。このサイトを通じて、少しでも多くの方が前向きな一歩を踏み出せるような情報をお届けします。