
「パートナーが双極性障害と診断されたけれど、どう接したらいいかわからない…」「気分の波があって、コミュニケーションが難しい…」そんな悩みを抱えていませんか?大切な人だからこそ、すれ違いはつらいものです。でも、諦める必要はありません。この記事では、双極性障害を持つパートナーとの絆を深め、より良い関係を築くためのヒントとして、ゲイリー・チャップマン博士が提唱する「5つの愛の言語(Five Love Languages)」の活用法をご紹介します。
なぜ心がすれ違うの?双極性障害とパートナーシップの壁
双極性障害は、気分の高揚(躁状態)と落ち込み(うつ状態)が繰り返される心の状態です。この気分の波は、ご本人だけでなく、最も身近なパートナーとの関係にも大きな影響を与えることがあります。
- 感情のジェットコースター:パートナーの気分の変化に、どう対応すれば良いのか戸惑うかもしれません。躁状態の時の多弁さや衝動性、うつ状態の時の無気力さや引きこもりなど、まるで別人のように見えることもあり、関係が不安定になりがちです。
- 「病気のせい」と「本心」の境界線:気分の波による言動だと頭では理解していても、時に傷ついたり、不満を感じたりするのは自然なことです。「どこまでが病気の影響で、どこからが本心なの?」と悩むこともあるでしょう。
- 共感の難しさ:パートナーが体験している気分の波の激しさや苦しさを、完全に同じように感じることは難しいかもしれません。その「分かってもらえない」という感覚が、双方にとって孤独感や断絶感を生むことがあります。
- コミュニケーション不全:言葉が足りなかったり、逆に言葉が鋭すぎたり。伝えたい愛情がうまく伝わらず、誤解が生じやすくなることも、大きな壁の一つです。
こうした壁を乗り越えるためには、お互いの「愛情表現」や「受け取り方」について理解を深めることが大切です。
心の距離を縮めるヒント「愛の5つの言語」とは?
「愛の5つの言語」とは、ゲイリー・チャップマン博士が提唱した、人がどのように愛を感じ、表現するかを5つのタイプに分類した考え方です。人それぞれ、最も心に響く「愛の言語」が異なるとされています。パートナーの主要な愛の言語を知り、その言語で愛情を伝えることで、より効果的に心が通い合うようになると言われています。
- 肯定的な言葉 (Words of Affirmation):褒め言葉、感謝の言葉、励ましの言葉、愛情のこもった言葉など、言葉による表現で愛を感じるタイプです。「ありがとう」「愛してるよ」「あなたのここが素敵だね」といった言葉が心に響きます。
- クオリティ・タイム (Quality Time):一緒に質の高い時間を過ごすことで愛を感じるタイプです。ただ同じ空間にいるだけでなく、スマートフォンなどを手放し、お互いに集中して会話を楽しんだり、共通の趣味に没頭したりする時間が大切です。
- 贈り物 (Receiving Gifts):プレゼントをもらうことで愛を感じるタイプです。高価なものである必要はなく、相手を想って選ばれたもの、気持ちが込められたものに価値を感じます。記念日だけでなく、何気ない日の小さな贈り物も喜ばれます。
- 奉仕活動 (Acts of Service):相手のために何かをしたり、助けたりする行動によって愛を感じるタイプです。家事を手伝う、相手の負担を軽くするような手助けをする、といった具体的な行動に愛情を感じます。
- 身体的なタッチ (Physical Touch):ハグやキス、手をつなぐ、肩を叩くといった身体的な触れ合いを通じて愛を感じるタイプです。言葉よりも、温かいスキンシップが安心感や愛情を伝えます。
双極性障害を持つパートナーとの関係において、この「愛の5つの言語」を意識することは、気分の波がある中でも、相手に届きやすい形で愛情を伝え、すれ違いを防ぐための有効な手段となり得ます。
双極性障害の波と「愛の5つの言語」~パートナーにできること~
双極性障害の症状は、躁状態、うつ状態、あるいはそれらが混在する状態など様々です。それぞれの状態や、パートナーがどの「愛の言語」を大切にしているかを考慮しながら、愛情を伝えていく工夫が求められます。以下は、元当事者の手記を参考に、パートナーができることのヒントです。
1. 肯定的な言葉:心の安定剤となる温かいメッセージを
双極性障害の波の中では、自己肯定感が揺らぎやすくなります。特にうつ状態の時は、自分を責めたり、無価値だと感じたりしがちです。
- 具体的にできること:「いつも頑張っているね」「あなたがいるだけで安心するよ」といった具体的な言葉で存在を肯定する。小さな変化や努力を見つけて褒める。感謝の気持ちをこまめに伝える。「愛している」という直接的な言葉も、大きな支えになります。
- 躁状態の時:時に攻撃的な言葉が出たり、批判的になったりすることもあります。その言葉を全て受け止める必要はありませんが、「あなたの気持ちは分かったよ。でも、その言い方は悲しいな」と、冷静に自分の気持ちを伝え(アイメッセージ)、境界線を引くことも大切です。興奮が収まった時に、改めてお互いの気持ちを話し合う機会を持ちましょう。
2. クオリティ・タイム:安定した「今」を大切に、不安定な時も「そばにいる」安心感を
一緒に過ごす時間は、絆を深める上で欠かせません。気分の状態によって、過ごし方を工夫しましょう。
- 具体的にできること:気分が比較的安定している時は、二人で楽しめる活動(散歩、映画鑑賞、共通の趣味など)の時間を意識的に作る。特別なことでなくても、一緒に食事をしながらゆっくり話すだけでも質の高い時間になります。
- うつ状態の時:無理に何かをさせようとせず、ただ静かにそばに寄り添うだけでも、「一人ではない」という安心感を伝えられます。相手が話したくなったら、じっくり耳を傾けましょう。
- 躁状態の時:エネルギーに満ち溢れている時は、そのエネルギーを安全な形で共有できるような活動(一緒に運動する、クリエイティブな作業をするなど)を提案してみるのも良いかもしれません。ただし、過度な活動に巻き込まれないよう注意も必要です。
3. 贈り物:「気にかけているよ」という想いを形に
贈り物は、金額の大小ではなく、相手を想う気持ちを伝える手段です。
- 具体的にできること:相手が好きなお菓子や飲み物、小さな花、心温まるメッセージカードなど、日常の中でのささやかなプレゼントは喜ばれます。「あなたのことを考えていたよ」というメッセージが伝わることが大切です。
- 躁状態の時の浪費:躁状態の症状として、金銭感覚が変化し、高額な買い物をしてしまうことがあります。パートナーとしては、こうした行動に驚いたり、心配したりするでしょう。事前に金銭管理について話し合っておくことや、大きな買い物は一緒に検討するなどのルール作りも有効です。高価な物でなくても愛情は伝えられることを、日頃から示していくと良いでしょう。手作りのものや、思い出の品なども素敵な贈り物です。
4. 奉仕活動:具体的な行動で「支えたい」気持ちを伝える
特にうつ状態で何も手につかない時、具体的な行動によるサポートは大きな助けとなります。
- 具体的にできること:家事(食事の準備、掃除、洗濯など)を代わって行う、通院に付き添う、子育ての負担を軽減する(子供を公園に連れ出すなど)。相手が「助かった」「ありがとう」と感じられるような、具体的な手助けを心がけましょう。
- 躁状態の時:エネルギッシュに家事や様々な活動をこなそうとすることがあります。そのエネルギーを否定せず、感謝を伝えつつも、無理をしていないか気遣う言葉をかけましょう。一緒に取り組める作業があれば、協力する姿勢を見せるのも良いでしょう。
5. 身体的なタッチ:言葉を超えた温もりで安心感を
身体的な触れ合いは、言葉以上に直接的に安心感や愛情を伝えることができます。
- 具体的にできること:不安を感じている時に優しく抱きしめる、手をつなぐ、背中をさする。何気ない日常の中でも、肩にそっと手を置いたり、頭を撫でたりするなどのスキンシップを大切にしましょう。
- 躁状態の時:性的な欲求が高まることもあります。お互いの気持ちを尊重し、心地よい範囲での触れ合いを大切にしましょう。もしパートナーの要求が過度だと感じる場合は、正直に気持ちを伝え、境界線を保つことも必要です。逆に、イライラして人を遠ざけようとする態度を見せることもありますが、内心では触れてほしい、抱きしめてほしいと願っている場合もあるかもしれません(元エッセイ筆者のように)。相手のサインを注意深く読み取ろうとする努力が大切です。
「わかってほしい」の先へ ~パートナーと自分自身のために~
双極性障害を持つパートナーの気持ちを完全に理解することは、どんなに近い関係であっても難しいかもしれません。しかし、「理解しようと努める姿勢」そのものが、何よりも大きな支えとなります。
ある当事者は、人間関係における期待値について、こんな例え話を紹介しています。「人は『ガロン(大きな容器)の人』と『パイント(小さな容器)の人』に分けられる。自分はガロンの愛情を注ぎ、ガロンの愛情を期待する。でも、相手がパイントの人だったら、ガロンを注いでも溢れてしまい、相手からはパイントしか返ってこない。相手に自分と同じだけのものを求めるのではなく、相手が差し出せる分を受け止め、足りない分は他の場所や、自分自身の中に見出す必要がある」と。
これは、パートナーに過度な期待をせず、相手のキャパシティを理解することの大切さを示唆しています。そして、それは同時に、パートナー自身が自分の心のケアを怠らないことの重要性にも繋がります。共倒れになることなく、長く支え合っていくためには、あなた自身の心と体の健康も守る必要があるのです。
また、当事者の方にとっても、自分自身を愛し、受け入れることは、気分の波と付き合いながら安定した生活を送るための大切なステップです。
ひとりで抱え込まないで
双極性障害の治療や対応は、ご家族だけで抱え込まず、専門家のサポートを得ることが不可欠です。
- 主治医との連携:パートナーの主治医とコミュニケーションを取り、病状や治療方針について理解を深めましょう(本人の同意がある場合)。
- カウンセリング:夫婦カウンセリングや、パートナー自身のためのカウンセリングも有効な手段です。専門家は、客観的な視点から具体的なアドバイスや心のサポートを提供してくれます。
- 支援団体・自助グループ:同じような悩みを持つ人々が集まる支援団体や自助グループに参加することで、情報交換をしたり、共感し合えたりする場が得られます。
信頼できる相談窓口や医療機関の情報を探し、適切なサポートに繋がることが大切です。
おわりに:愛と工夫で築く、二人だけの絆
双極性障害を持つパートナーとの生活は、決して平坦な道のりではないかもしれません。しかし、病気への正しい理解と、相手を思いやる心、そしてコミュニケーションの工夫があれば、困難を乗り越え、より深い絆を育んでいくことは可能です。「愛の5つの言語」は、そのための強力なツールの一つとなるでしょう。
完璧な理解や完全な解決を求めすぎず、日々の小さな積み重ねを大切に、二人で支え合いながら、希望を持って歩んでいってください。
免責事項:この記事は、双極性障害を持つ方やそのご家族への情報提供を目的としたものであり、専門的な医学的アドバイスに代わるものではありません。診断や治療については、必ず医師や専門家にご相談ください。