「ADHDで仕事が辛い…」を解決!職場で理解を得るための伝え方・コミュニケーション術と合理的配慮の活用法

ADHD(注意欠如・多動症)の特性を持つ方が職場で直面する困難は、ご本人にしか分からない深い悩みや葛藤を伴うことがあります。「集中が続きにくい」「タスクの優先順位付けが難しい」「つい思ったことを口にしてしまう」といった特性が、仕事の進め方や人間関係において、意図せず誤解を生んだり、能力を発揮しづらい状況に繋がったりすることも少なくありません。そして、その困難を軽減するために「自分の特性を職場にどう伝えれば良いのか」「どのような配慮を求めることができるのか」という切実な問いを抱えている方もいらっしゃるでしょう。

この記事では、ADHDの特性を持つ方が、職場で建設的なコミュニケーションを図り、必要な理解や配慮を得ながら、より働きやすい環境を築いていくための具体的なステップや考え方について解説します。単に「伝える」という行為だけでなく、その前提となる自己理解の重要性から、具体的な伝え方のバリエーション、そして「合理的配慮」の本質と獲得プロセスに至るまで、多角的な視点から情報を提供します。この記事が、皆さまが自分らしく、持てる力を最大限に発揮しながら働くための一助となることを願っています。

なぜ職場で「自分の特性を伝えること」が大切なのか?

ADHDの特性は多様であり、一人ひとりその現れ方や困りごとの内容は異なります。そのため、周囲からはその行動や反応が「不注意だから」「やる気がないから」と誤解されてしまうこともあります。しかし、多くの場合、それは本人の意思や努力だけではコントロールが難しい脳機能の特性に起因しています。

職場で自身の特性について伝えることは、こうした誤解を解き、無用な摩擦を避けるための一つの有効な手段となり得ます。伝えることで、以下のような肯定的な変化が期待できます。

  • 相互理解の深化: あなたの行動の背景にある特性を周囲が理解することで、コミュニケーションが円滑になり、より良い協力関係を築きやすくなります。
  • 適切なサポートの獲得: どのような点に困難を感じやすく、どのようなサポートがあれば業務を遂行しやすくなるのかを具体的に伝えることで、職場から必要な配慮や支援を得られる可能性が高まります。
  • 能力発揮の促進: 理解と配慮のある環境は、あなたが本来持っている能力や強みをより発揮しやすい状況を作り出します。
  • 心理的負担の軽減: 特性を隠したり、誤解を恐れたりすることによる心理的なストレスが軽減され、より安心して業務に取り組めるようになることが期待されます。

もちろん、「伝える」ことには勇気が必要であり、状況によっては慎重な判断が求められる場合もあります。しかし、その一歩が、より働きやすい環境への扉を開く鍵となるかもしれません。

伝える前の準備:自己理解と戦略を練る

効果的に自分の特性を伝え、必要な配慮を得るためには、事前の準備が非常に重要です。具体的には、「自分自身の特性を深く理解すること」と「どのように伝えるかという戦略を練ること」の二つの側面から準備を進めましょう。

自分の特性を客観的に把握する

まずは、ご自身のADHDの特性について、できる限り客観的に把握することが大切です。以下の点を整理してみましょう。

  • 得意なこと・強み: ADHDの特性は、困難さだけでなく、創造性、行動力、特定の分野への高い集中力といった強みとして現れることもあります。これらを認識することは、自己肯定感を保ち、伝える際にもポジティブな側面を添える助けになります。
  • 苦手なこと・困難を感じる場面: 具体的にどのような業務や状況で困難を感じやすいのか(例:長時間の会議、マルチタスク、曖昧な指示、騒がしい環境など)、そしてその際にどのような特性が影響しているのかを具体的に言語化します。
  • 過去の成功体験・失敗体験からの学び: これまでどのような工夫で困難を乗り越えてきたか、あるいはどのような状況でうまくいかなかったかを振り返ることで、必要なサポートがより明確になります。
  • 専門家からの所見(もしあれば): 医師やカウンセラーなどの専門家から診断を受けている場合は、その所見やアドバイスも参考に、自分の特性について整理します。

伝える内容と範囲、タイミングを検討する

次に、誰に、何を、どこまで、いつ伝えるかという具体的な戦略を考えます。全ての情報を全員に伝える必要はありません。

  • 伝える相手: 直属の上司、人事担当者、信頼できる同僚など、状況や目的に応じて伝える相手を選びます。相手の立場や関係性を考慮することが重要です。
  • 伝える内容の核心: 診断名そのものを伝えるかどうかだけでなく、「どのような特性があり、そのために仕事でどのような工夫や配慮があると助かるのか」という具体的な情報を中心に据えます。
  • 伝える範囲の調整: 最初から全てを開示するのではなく、まずは業務上必要な範囲に限定して伝えるという選択肢もあります。相手の反応を見ながら、徐々に情報を加えていくことも考えられます。
  • 伝えるタイミングと場所: 相手が落ち着いて話を聞ける時間と場所を選びましょう。業務が立て込んでいる時間帯や、周囲に人が多い場所は避けるのが賢明です。事前にアポイントを取ることをお勧めします。

実践的な伝え方:誠実さと具体性が鍵

準備が整ったら、実際に伝えてみましょう。伝える際には、誠実な態度と具体的な説明を心がけることが、相手の理解と協力を得るための鍵となります。

上司への伝え方と相談のポイント

上司は、業務の指示や評価、職場環境の調整などにおいて重要な役割を担っています。上司に伝える際には、以下の点を意識すると良いでしょう。

  • 相談の切り出し方: 「少しご相談したいことがあるのですが、お時間をいただけますでしょうか」と丁寧に切り出し、落ち着いて話せる時間を確保します。
  • 伝えるべき内容の骨子:
    • まず、日頃の感謝や仕事への意欲を伝えることで、前向きな姿勢を示します。
    • 次に、自身の特性(診断名に触れるかどうかは任意)と、それが具体的にどのような業務上の困難に繋がっているかを説明します。(例:「私は注意を持続させることが少し苦手でして、特に複数の作業を同時に行う際に、効率が落ちてしまうことがあります」)
    • そして、その困難を軽減するために、どのような工夫を自分なりにしているか、さらにどのような配慮やサポートがあると業務をより円滑に進められると考えるかを具体的に伝えます。(例:「ですので、作業に集中するために静かな環境を確保する時間をいただいたり、指示をいただく際に優先順位を明確にしていただけると大変助かります」)
    • 最後に、今後も貢献していきたいという意欲を改めて伝えます。
  • 具体的な伝え方の例文:「〇〇部長、いつもご指導いただきありがとうございます。本日は、私の業務の進め方について少しご相談させて頂きたくお時間をいただきました。実は、私には注意の特性があり、例えば、一度に多くの情報が入ってくると整理しきれず、作業の効率が落ちてしまうことがあります。そのため、自分なりにメモを細かく取るなどの工夫はしているのですが、もし可能でしたら、重要なご指示をいただく際には、要点をまとめてメールでもお送りいただけると、確認がしやすく大変助かります。今後もチームに貢献できるよう努めてまいりますので、ご理解いただけますと幸いです。」
  • 建設的な対話を心がける: 一方的に要求を伝えるのではなく、上司の意見も聞きながら、共に解決策を探る姿勢が大切です。

同僚への伝え方と協力の求め方

日常的に関わる同僚には、より具体的な業務上の協力をお願いする場面が出てくるかもしれません。同僚に伝える際は、相手との関係性や状況に応じて、伝える範囲や内容を調整することが大切です。

  • 伝える範囲の判断: 必ずしも診断名や特性の全てを伝える必要はありません。業務を円滑に進めるために必要な情報に絞り、相手に負担を感じさせない配慮も重要です。
  • 具体的な協力依頼:例えば、「集中して作業したいので、この時間はなるべく声かけを控えてもらえると助かります」「複数のことを一度に言われると混乱しやすいので、一つずつお願いしてもいいですか?」など、具体的で実行可能な協力を依頼します。
  • 感謝の気持ちを伝える: 協力してもらった際には、必ず感謝の言葉を伝えることで、良好な関係を維持しやすくなります。

伝える際の注意点

  • 感情的にならない: 冷静に、客観的な事実を伝えることを心がけます。
  • 相手を責めない: 「あなたのせいで困っている」というニュアンスにならないよう注意します。
  • 一度で全てを理解してもらおうとしない: 相手にも理解する時間が必要です。必要に応じて、再度説明したり、資料を渡したりすることも有効です。
  • 記録を残す(必要な場合): 特に重要な配慮事項については、後々の確認のために、相談内容や決定事項をメールなどで記録として残しておくことも検討しましょう。

「合理的配慮」を理解し、活用する

「合理的配慮」とは、障害のある人が障害のない人と平等に社会参加できるよう、個々の状況に合わせて職場や学校などが提供するべき配慮のことです。2016年に施行された障害者差別解消法(2024年4月1日より事業者による合理的配慮の提供が義務化)により、企業には、障害のある従業員からの申し出に基づき、過度な負担にならない範囲で合理的配慮を提供することが求められています。

合理的配慮の基本的な考え方

合理的配慮は、画一的なものではなく、個々の障害の特性や状況、職場の環境などを踏まえて、当事者と事業者が話し合い、建設的な対話を通じて決定されるべきものです。重要なのは、「障害によって生じる困難を取り除く、または軽減するための個別の調整や変更」であるという点です。

ADHDの特性に応じた合理的配慮の具体例

ADHDのある方が職場で求めることができる合理的配慮の例としては、以下のようなものが考えられます。ただし、これらはあくまで一例であり、個別の状況に応じて内容は異なります。

  • 業務指示・タスク管理に関する配慮:
    • 指示を一つずつ、具体的かつ明確に伝える
    • 口頭だけでなく、文書やメールなど視覚的な情報でも指示を補足する
    • タスクの優先順位付けやスケジュールの作成をサポートする
    • 長大な業務を細分化し、中間目標を設定する
    • 定期的な進捗確認やフィードバックの機会を設ける
  • 作業環境に関する配慮:
    • 騒音の少ない、集中しやすい作業場所の提供(例:パーテーションの設置、空いている会議室の利用許可)
    • 視覚的な刺激が少ない環境への配慮
    • 作業に必要なツール(例:ノイズキャンセリングイヤホン、タイマー、特定のソフトウェア)の使用許可
  • コミュニケーションに関する配慮:
    • 会議の議題や資料を事前に共有する
    • 会議での発言のタイミングを配慮する、あるいはメモでの意見提出を認める
    • 重要な連絡事項は、複数の方法(口頭、メール、掲示など)で周知する
  • 勤務時間・休憩に関する配慮:
    • 短時間の休憩をこまめに取ることを認める
    • (業務に支障のない範囲で)柔軟な勤務時間制度の活用を検討する

合理的配慮を依頼する際のポイント

  • 具体的な困難と求める配慮を明確に伝える: なぜその配慮が必要なのか、その配慮によって業務がどのように改善される見込みがあるのかを具体的に説明します。
  • 過度な負担にならない範囲で提案する: 企業側の状況も考慮し、現実的で実行可能な提案を心がけます。
  • 相談・話し合いの姿勢を持つ: 一方的な要求ではなく、企業側と協力して最善策を見つけ出すという姿勢で臨みます。
  • 専門家の意見を参考にする: 必要に応じて、医師や支援機関の専門家からの意見書などを提示することも有効です。

合理的配慮の提供は、企業にとっても、従業員の能力を最大限に引き出し、多様な人材が活躍できる職場環境を整備するという点でメリットがあります。

より良い職場環境のための継続的な取り組み

一度特性を伝え、配慮を得られたとしても、それで終わりではありません。継続的なコミュニケーションと、状況に応じた調整が、より良い職場環境を維持し、発展させていくためには不可欠です。

定期的なコミュニケーションとフィードバック

上司や同僚とは、定期的に業務の進捗状況や困りごとについて話し合う機会を持つことが望ましいです。うまくいっている点や感謝の気持ちを伝えることも大切ですし、新たな課題が出てきた場合には、早めに相談し、対応策を一緒に考えるようにしましょう。提供されている配慮が適切に機能しているか、改善の余地はないかなどを双方で確認し合うことも重要です。

支援機関や社内相談窓口の活用

職場の理解や協力を得るのが難しい場合や、より専門的なアドバイスが必要な場合には、外部の支援機関や社内の相談窓口を活用することも有効な手段です。

  • 産業医・産業保健スタッフ: 企業に所属する産業医や保健師は、健康管理の専門家として、職場環境の改善や合理的配慮に関する助言を行ってくれます。
  • 人事・労務担当者: 企業の規模によっては、障害者雇用やダイバーシティ推進を担当する部署や担当者がいる場合があります。
  • 発達障害者支援センター: 各都道府県や指定都市に設置されており、発達障害のある人やその家族からの相談に応じ、情報提供や助言を行っています。
  • 障害者就業・生活支援なかぽつセンター: 障害のある人の就業面と生活面の一体的な相談・支援を行っています。
  • 労働局・ハローワーク: 障害者雇用に関する相談や、企業への啓発・指導などを行っています。

セルフケアとストレスマネジメント

職場で能力を発揮し続けるためには、ご自身の心身の健康を維持することも非常に大切です。ADHDの特性上、ストレスを感じやすかったり、過集中による疲労が溜まりやすかったりすることもあります。十分な睡眠、バランスの取れた食事、適度な運動、リフレッシュできる趣味の時間などを意識的に取り入れ、ストレスを上手にコントロールする方法を見つけましょう。困難を感じたときには、一人で抱え込まず、信頼できる人に相談することも大切です。

おわりに:あなたらしい働き方を見つけるための第一歩

ADHDの特性を職場で伝え、理解や配慮を求めることは、決して特別なことではありません。それは、あなたが自分らしく、持てる能力を最大限に活かしながら働くための、建設的で前向きな取り組みです。そのプロセスは、時に勇気やエネルギーを必要とするかもしれませんが、小さな一歩を踏み出すことで、職場環境は少しずつ、しかし確実に変わっていく可能性があります。

大切なのは、完璧を目指すことではなく、あなた自身が納得できる形で、周囲とのより良い関係性を築いていくことです。この記事でご紹介した情報が、そのための具体的なヒントとなり、あなたがより安心して、いきいきと働ける環境づくりのお役に立てれば幸いです。もし一人で悩んでしまう場合は、遠慮なく専門機関や信頼できる人に相談し、サポートを求めてください。あなたらしい働き方を見つける旅を、心から応援しています。

この記事の筆者・監修者

筆者

Findcare編集部

監修者

山口さとみ

山口さとみ

臨床心理士として、多くの方々や子どもたちとそのご家族のサポートをしてきました。医学的な情報だけでなく、日々の生活の中での工夫や、周囲の理解を深めるためのヒント、そして何よりも当事者の方々の声に耳を傾けることを大切にしています。このサイトを通じて、少しでも多くの方が前向きな一歩を踏み出せるような情報をお届けします。