「周りの子と、少しだけ違うみたい…」
「何度言っても、同じことを繰り返してしまう…」
「もしかして、私の育て方が悪かったのかな…?」
子育てをしていると、ふと、そんな風にお子さんのことで心配になる瞬間があるかもしれません。
周りの子と少し違う様子に、「発達障害」という言葉が頭をよぎり、どうしたらいいか分からず、たった一人で暗いトンネルの中にいるような気持ちになっているお父さん、お母さん。そして、ご自身のことで長年生きづらさを感じ、「自分もそうかもしれない」と思っている大人の方もいらっしゃるのではないでしょうか。
でも、大丈夫ですよ。あなたは、けっして一人ではありません。
この記事は、あなたのあらゆる不安や疑問に、一つひとつ丁寧にお答えするために作りました。
この記事を読み終わる頃には、発達障害への正しい理解が深まり、あなたとお子さんの毎日が少しでも楽になる具体的なヒントが、きっと見つかっているはずです。
第1部:まず、これだけは知っておいてほしいこと
発達障害ってなんだろう?- 生まれつきの「脳の個性」です
まず最初に、一番大切なことをお伝えしますね。
発達障害は、専門的には「神経発達症」や「神経発達障害」と呼ばれます(※)。なんだか難しく聞こえますが、要するに「生まれつきの、脳の働きの個性」のことです。
絵を描くのが得意な子、計算が速い子がいるように、脳の働きにも一人ひとり違いがあります。発達障害のある人は、情報の受け取り方や感じ方、伝え方が、多数派の人たちと少し違う、というだけなんです。
けっして、病気や本人の「わがまま」「努力不足」ではありません。 その人だけが持つ、ユニークで素敵な個性だと捉えてみてください。この視点を持つだけで、お子さんへの見方が変わり、心が少し楽になりますよ。
(※)法律(発達障害者支援法)では、「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であつてその症状が通常低年齢において発現するもの」と定義されています。
「私の育て方が…」その心配は、絶対にしないでください!
「私がもっと厳しく叱っていれば…」 「妊娠中の過ごし方が悪かったのかも…」
もしあなたが今、そう自分を責めているのなら、どうか今日この瞬間に、その気持ちを手放してください。
発達障害の原因は、育て方やしつけ、愛情不足ではありません。
これは、科学的にもはっきりと分かっていることです。あなたは今まで、一生懸命、お子さんを愛し、悩みながら育ててきました。そのことに、どうか胸を張ってくださいね。
発達障害の原因は?- 科学的に分かっていること
では、原因は何かというと、現在の医学では、遺伝的な要因など、さまざまな要素が複雑に絡み合って起こる、生まれつきの脳機能の発達の偏りが原因だと考えられています。
これは、誰のせいでもありません。国立精神・神経医療研究センターのウェブサイトでも、「ご本人のなまけや、親のしつけ・育て方の問題ではない」と明記されています。まずは、正しい知識を持つことが、あなたと家族の心を守る第一歩になります。
第2部:お子さんやあなたの特性はどれに近い?主な種類と症状
発達障害には、いくつかのタイプがあります。そして、その特性は年齢によって現れ方が変わることもあります。ここでは「子どもの頃」と「大人になってから」の視点も交えて見ていきましょう。複数の特性をあわせ持つ人もたくさんいます。
自閉スペクトラム症(ASD)
**「社会的なコミュニケーションの苦手さ」「強いこだわり」が大きな特徴です。まるで、自分だけの独特なルールを持つ世界に生きているようなイメージです。
- 子どもの頃の主な特性
- 一人遊びが好きで、お友達とのごっこ遊びが苦手
- 相手の表情や冗談が分かりにくい
- いつも同じ道順や手順でないと癇癪(かんしゃく)を起こす
- 特定の物(ミニカー、石など)を並べることに夢中になる
- 特定の音や光、肌触りを極端に嫌がる(感覚過敏)
- 大人になってからの現れ方
- 「空気を読む」のが苦手で、正直に思ったことを言いすぎてしまう
- 雑談が苦手で、会議などで自分の関心のあることだけを話し続けてしまう
- 急な仕事の変更や、部署異動などが大きなストレスになる
- 周りからは「真面目だけど、ちょっと変わっている」「融通が利かない」と思われがち
関わりのヒント:「具体的に、見てわかるように」 「ちゃんとして」のような曖昧な言葉ではなく、「おもちゃを、この青い箱に片付けようね」のように、具体的に、肯定的な言葉で伝えましょう。言葉だけでなく、絵や写真でスケジュールを示す(視覚支援)と、見通しが立って安心して行動しやすくなります。
注意欠如・多動症(ADHD)
「不注意(うっかり)」「多動性(じっとしていられない)」「衝動性(思いつくとすぐ行動)」が大きな特徴です。脳の中の「注意のコントローラー」や「行動のブレーキ」が、少し気まぐれに働くイメージです。(※最新の診断基準DSM-5-TRでは「注意欠如・多動症」という名前になっています)
- 子どもの頃の主な特性
- 忘れ物や失くし物が多い
- 授業中でも、そわそわして立ち歩いてしまう
- 順番を待てずに、お友達の会話に割り込んでしまう
- お片付けが苦手で、部屋が散らかりやすい
- 大人になってからの現れ方
- 仕事でケアレスミスが多い(メールの誤送信、数字の間違いなど)
- 締め切りや約束の時間を守るのが苦手
- 貧乏ゆすりなど、常に体をどこか動かしていないと落ち着かない(多動性が内面化する)
- 衝動買いをしてしまったり、思ったことをすぐ口に出して後悔したりする
- 関わりのヒント:「仕組みでカバー!」 「気をつけなさい!」と叱るより、仕組みでカバーしましょう。玄関のドアに写真付きの「もちものチェックリスト」を貼ったり、スマートフォンのリマインダー機能を使ったりするのがおすすめです。有り余るエネルギーは、スポーツなど本人が好きな形で発散させてあげるのも良い方法です。
限局性学習症(LD・SLD)
知的発達に遅れはないのに、「読む」「書く」「計算する」といった特定の学習だけが、極端に苦手な状態です。けっして、本人の努力不足ではありません。
- 主な特性
- 読字障害(ディスレクシア): 文字が歪んで見えたり、どこを読んでいるか分からなくなったりする。音読がとても遅い。
- 書字表出障害(ディスグラフィア): 漢字の形を覚えられない。鏡文字を書いてしまう。作文が極端に苦手。
- 算数障害(ディスカリキュリア): 数の大小が分からない。繰り上がりや繰り下がりで混乱する。簡単な暗算ができない。
- 大人になってからの困りごと
- 書類を読むのに時間がかかり、仕事がなかなか進まない
- 報告書やメールの文章を書くのが苦痛
- 会議で出てくる数字やデータが、頭に入ってこない
- 関わりのヒント:「便利なツールを使おう!」 苦手なことを根性で乗り越えさせようとせず、便利なツールを使いましょう。教科書の読み上げソフトを使ったり、計算は電卓やアプリを使ったり、会議の内容をボイスレコーダーで録音したり。学校の先生や職場の上司と相談し、その人に合った学び方・働き方を見つけることが大切です。
その他の発達障害
上記の他にも、以下のような特性が併存することもあります。
- チック症 / トゥレット症: 頻繁なまばたきや咳払い、特定の言葉などを、本人の意思とは関係なく繰り返してしまいます。
- 発達性協調運動症(DCD): 極端に不器用で、「ハサミをうまく使えない」「縄跳びができない」「よく転ぶ」といった様子が見られます。
- 吃音(きつおん): 「あ、あ、あのね」のように、言葉がスムーズに出なかったり、同じ音を繰り返したりします。
第3部:もしかして…?見過ごされがちな大切なこと
ここからは、多くの方が悩んでいるにもかかわらず、公的なサイトなどではあまり触れられてこなかった、とても大切なテーマについてお話しします。
診断はないけど、しんどい…「グレーゾーン」って?
「発達障害の特性にはいくつか当てはまるけど、病院で診断基準を満たすほどではないと言われた…」 「でも、毎日すごく生きづらいし、困っている…」
このような状態は、医学的な用語ではありませんが「グレーゾーン」と呼ばれることがあります。
グレーゾーンの最大の課題は、診断がないために公的な支援や配慮を受けにくく、周りからも「気にしすぎ」「努力が足りない」と誤解され、孤立しやすい点にあります。
【年齢別】グレーゾーンで見られがちな特性チェックリスト
もし当てはまる項目が多くても、自分を責めないでくださいね。「私の困りごとは、これだったのかも」と知ることが、次の一歩に繋がります。
- 幼児期
- [ ] 特定の順番や手順に強くこだわる
- [ ] 集団行動が苦手で、一人で遊ぶことが多い
- [ ] 言葉の発達が少しゆっくりな気がする
- 小学生
- [ ] 忘れ物が多く、整理整頓が苦手
- [ ] 授業中にじっと座っているのが難しい
- [ ] 友達との距離感がつかめず、トラブルになりやすい
- 中高生・大人
- [ ] 思ったことをストレートに言いすぎて、人間関係がうまくいかない
- [ ] 仕事や家事の段取りを立てるのが苦手
- [ ] 複数のことを同時に頼まれるとパニックになる
【対処法】診断がなくても、できることはたくさんあります。まずは、自分の「得意」と「苦手」を書き出して、自分で自分の「取扱説明書」を作ってみるのがおすすめです。そして、信頼できる家族や友人に「私はこういうことが苦手だから、こうしてくれると助かる」と具体的に伝えてみましょう。
「二次障害」ってなに?- 周囲の理解が未来を守ります
二次障害とは、発達障害そのものではなく、その特性と周りの環境が合わないことで、ストレスや失敗体験が積み重なり、後から心や体に現れる不調のことです。
【二次障害が起こるメカニズム】
- 元々の特性 (例:じっとしているのが苦手) ↓
- 周囲の無理解・不適切な対応 (例:「なんで座ってられないの!」と毎日叱られる) ↓
- 慢性的なストレス・自己肯定感の低下 (例:「自分はダメな人間だ」と思い込む) ↓
- 二次障害の発症 (例:うつ病、不安障害、不登校、引きこもりなど)
二次障害で現れる具体的な症状
- 心の問題(内在化障害): うつ病、不安障害、対人恐怖、心身症(頭痛、腹痛)、強迫性障害、引きこもり など
- 行動の問題(外在化障害): 暴力・暴言、非行、問題行動 など
一番お伝えしたいのは、二次障害は、早期の理解と適切な環境調整によって、予防できる可能性が高いということです。本人の特性を理解し、「叱る」のではなく「工夫する」ことで、お子さんの自己肯定感を守り、輝かしい未来を守ることができるのです。
第4部:一人で悩まないで!支援への完全ロードマップ
「もしかして…」と思ったら、一人で抱え込まず、専門家に相談してみましょう。ここでは、相談から診断、そして利用できるサービスまでを分かりやすく解説します。
「もしかして」と思ったら?相談から診断までの5ステップ
診断を受けるかどうかは悩むかもしれませんが、診断は「レッテル貼り」ではなく、その人の「取扱説明書」を手に入れること。本人も家族も楽になるための「スタートライン」です。
【ステップ1:準備】まずは記録から始めよう いきなり病院に行くのはハードルが高いですよね。まずは、「いつ、どこで、どんなことに困っているか」を具体的にメモしてみましょう。母子健康手帳や学校の通知表なども手元にまとめておくと、相談がスムーズに進みます。
【ステップ2:相談窓口を探す】身近な場所に相談しよう 病院の前に、まずは以下のような身近な場所で話を聞いてもらうのがおすすめです。「子どもの発達のことで相談したいのですが…」と電話一本かけるだけで、道が開けます。
- 子どもの場合: 市町村の保健センター、子育て支援センター、児童発達支援センター、かかりつけの小児科、学校のスクールカウンセラー など
- 大人の場合: 発達障害者支援センター、精神保健福祉センター など
【ステップ3:医療機関を探す】何科に行けばいい? 専門的な診断を考え始めたら、医療機関を受診します。
- 子どもの場合: 小児科、小児神経科、児童精神科 など
- 大人の場合: 精神科、心療内科 など
【ステップ4:初診・問診】ありのままを話そう 医師から、これまでの生育歴や現在の生活状況、困りごとについて詳しく聞かれます。ステップ1で準備したメモが役立ちますよ。
【ステップ5:検査・診断】総合的に判断される 必要に応じて、WISCやWAISといった心理検査や知能検査などを行います。検査結果だけでなく、これまでの問診や行動観察などを総合的に見て、医師が診断をします。
【お悩み別】暮らしを支える公的支援とサービス一覧
診断を受けたり、支援が必要だと判断されたりした場合、様々な公的サポートを利用できます。ここでは、お悩み別にどんな制度があるかをご紹介します。
こんなことで悩んでいたら… | こんな支援・サービスがあります! |
誰かに話を聞いてほしい、相談したい | 発達障害者支援センター、児童相談所、市町村の相談窓口 |
経済的な負担を軽くしたい | 特別児童扶養手当、障害児福祉手当、障害年金など |
医療費の負担を減らしたい | 自立支援医療制度(医療費の自己負担が原則1割に) |
色々な割引やサポートを受けたい | 精神障害者保健福祉手帳(税金の控除、公共料金の割引など) |
放課後や休日に子どもを預かってほしい | 放課後等デイサービス、日中一時支援 |
将来、自分に合った仕事を見つけたい | 就労移行支援事業所、地域障害者職業センター |
※制度の利用には条件があります。まずはお住まいの自治体の福祉窓口に問い合わせてみてくださいね。
専門家と一緒に歩む「療育」と、親のための「ペアレントトレーニング」
【療育】苦手を克服するより、「生きる力」を育む場所 療育は、「治療」ではなく、お子さんが社会で自分らしく生きていくための力を育む「トレーニング」です。応用行動分析(ABA)やソーシャルスキルトレーニング(SST)など様々な手法があり、専門家がお子さん一人ひとりに合ったプログラムでサポートしてくれます。
【ペアレントトレーニング】お父さん・お母さんのための応援プログラム これは、発達障害のあるお子さんを育てる保護者向けのプログラムです。子どもの行動への理解を深め、褒め方や伝え方の具体的なスキルを学びます。一番の目的は、お子さんの行動を変えることだけでなく、親御さん自身の育児ストレスを減らし、自信を持って子育てができるようになること。 同じ悩みを持つ仲間と出会える、心強い場でもあります。
第5部:今日からできる!毎日を楽にするヒント
専門的な支援も大切ですが、お家や学校、職場でできるちょっとした工夫で、毎日はぐっと楽になります。
家庭・学校・職場でできる、優しい関わり方と環境づくりの工夫
- 「できたこと」に注目して、具体的に褒める 「また靴下脱ぎっぱなし!」の代わりに、「あ、今日は洗濯カゴに入れられたね!すごい!」と、できたことを虫眼鏡で探すように見つけて褒めましょう。自己肯定感が育ちます。
- やることを見える化する 「朝のしたく」「仕事のタスク」などを、イラストや写真、ホワイトボードで貼り出し、終わったらチェックを入れる。やるべきことが一目で分かると、混乱が減ります。
- タイマーを活用する 「この長い針が6に来たら、ゲームはおしまいだよ」「あと15分でこの作業を終えよう」と視覚的に終わりを伝えることで、切り替えがスムーズになります。
- クールダウンできる場所を作る お子さんが癇癪を起こした時に一人で落ち着ける「安心基地」(小さなテントなど)や、職場で少し休憩できる静かなスペースがあると、パニックを防ぎやすくなります。
- 指示は「一つずつ、短く」 「あれとこれをやって、そのあとで…」と一度に伝えると、混乱してしまいます。「まず、この書類をコピーしてください」のように、一つずつ具体的に伝えましょう。メモを渡すのも効果的です。
- 便利なグッズやアプリを頼る 騒がしい場所が苦手ならイヤーマフ、文章を読むのが苦手ならリーディングトラッカー(読む行だけが見える定規)など、便利なグッズはたくさんあります。苦手なことを、テクノロジーや工夫で補いましょう。
まとめ:あなたは、一人じゃありません。
長い時間、ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。 最後に、この記事で一番お伝えしたかった大切なポイントを、もう一度おさらいしましょう。
- ✅ 発達障害は、育て方のせいじゃない。その人だけの素敵な「個性」です。
- ✅ 叱るより、環境を整える工夫を。本人の「できた!」を増やしましょう。
- ✅ グレーゾーンや二次障害という、見えづらい困難があることを知ってください。
- ✅ お父さん、お母さん自身の心を大切に。時には周りを頼ってください。
- ✅ 一人で悩まず、まずは身近な窓口に相談を。あなたは一人じゃありません。
子育ては、ただでさえ大変なことの連続です。お子さんの発達に悩み、先の見えない不安で押しつぶされそうになる日もあると思います。ご自身のことで、ずっと生きづらさを感じてきた方もいるでしょう。
でも、どうか忘れないでください。
あなたのすぐそばには、ダイヤモンドの原石のように、ユニークな輝きを持つお子さんがいます。そして、そんなお子さんを誰よりも愛し、心配している素晴らしいあなたがいます。もしご自身のことで悩んでいるなら、その困難の理由を知り、自分らしく生きる方法を探し始めた、勇気あるあなたがいます。
この記事が、あなたの不安な心にそっと寄り添い、明日からの一歩を少しでも明るく照らす光になれたなら、これ以上嬉しいことはありません。