女の子のADHD、見過ごされていませんか?特有のサイン20選と気づきのポイント

女の子のADHDは、男の子とは異なる形で現れることがあります。

注意欠如・多動症(ADHD)は、長い間、主に男の子の特性だと考えられてきました。しかし、ADHDへの理解が深まるにつれ、女の子や女性の診断も増えています。これは、女の子のADHDが男の子のそれとは異なる現れ方をすることが分かってきたためです。

例えば、女の子は「不注意優勢型」のADHDである場合が多く、ぼんやりしていたり、内気に見えたりすることが一般的です。対照的に、男の子は「多動・衝動性優勢型」や「混合型」のADHDであると診断されることが多いと言われています。

女の子のADHDが見過ごされると、学校での適切なサポートを受けられなかったり、自尊心の低下や自己否定につながったりする可能性があります。大人になってからのメンタルヘルスにも影響を及ぼすことさえあります。女の子のADHDに見られる特有の症状を知ることは、適切な時期に専門家へ相談するための第一歩となります。

なぜ女の子のADHDは見過ごされやすいのか?

女の子のADHDの症状は、しばしば「おとなしい」「夢見がち」「おしゃべり」といった性格的特徴として片付けられてしまうことがあります。活発に動き回ったり、反抗的な態度を示したりする男の子の方が、ADHDの評価が必要だと考えられやすい傾向にあります。しかし、女の子のADHDのサインは、より内面的で、気づかれにくい形で現れることが多いのです。

女の子のADHD特有の症状チェックリスト

以下に挙げるのは、女の子にADHDの可能性がある場合に見られるかもしれないサインです。これらのサインが複数、継続的に見られる場合は、専門家への相談を検討してみるとよいでしょう。ただし、いくつかのサインがあるからといって、必ずしもADHDであるとは限りません。

不注意に関連するサイン

  • ぼんやりしている、空想にふけりがち: 自分だけの世界に入り込んでいるように見える。
  • 集中力を持続することが難しい: すぐに気が散ってしまう。
  • 話を聞いていないように見える: 指示や情報を処理するのに時間がかかることがある。
  • 物事を順序だてて行うのが苦手: 整理整頓が苦手で、持ち物や身の回りが散らかっている。
  • 忘れ物が多い、物をよく失くす。
  • 「不注意なミス」が多いように見える。
  • 課題や作業を最後までやり遂げるのが難しい。
  • 努力していない、やる気がないように見えることがある。

多動性・衝動性に関連する隠れたサイン

  • おしゃべりが過ぎる: 話したいことがたくさんあるが、人の話を聞くのは苦手。
  • 言葉による衝動性: 思ったことをすぐに口に出す、人の話を遮って話し始める。
  • 感情の起伏が激しい: ちょっとしたことでカッとしたり、大げさに反応したりする。
  • そわそわと落ち着きがない: 椅子を頻繁に動かしたり、手遊びをしたりする。(男の子ほど明確な多動ではない場合も)
  • ドアをバタンと閉めるなど、衝動的な行動がみられることがある。

情緒・行動面の特徴

  • 内気、引っ込み思案に見える。
  • 傷つきやすい、すぐに泣いてしまう。
  • 音、布地の感触、他人の感情などに非常に敏感。
  • 他の活動にすぐに注意が移ってしまう。
  • 時間にルーズで、遅刻が多い(時間管理が苦手)。
  • 集団の中で孤立しているように見える。

ADHDの特性は、一人ひとり異なって現れます。また、これらのサインのすべてが一人の女の子に当てはまるわけではありません。

年齢で変化するADHDの現れ方

ADHDの特性は、女の子が成長するにつれて変化することもあります。特に思春期の女の子の場合、ADHDは感情面や社会的な側面で大きな影響を与える可能性があります。友人関係での孤立感、学校での集中困難、衝動コントロールの問題、内気、不安、低い自尊心などに悩むことがあります。

女の子は自分の症状を内面化し、「自分の性格が悪いからだ」「努力が足りないからだ」と誤解してしまうことがあります。これは神経発達の特性(ニューロダイバージェンス)のサインである可能性を見逃すことにつながります。

女の子のADHD診断で重要な3つの視点

女の子のADHDのサインや症状には、いくつかの共通する根底的な特徴があると考えられています。診断においては、以下の点が特に注意深く観察されます。

1. 不注意を補うための過集中(ハイパーフォーカス)

ADHDの女の子にとって、目の前の課題に注意を払い続けることは大きな挑戦です。教室の窓の外を飛ぶ鳥など、外的な出来事に気を取られたり、自分の世界に没頭してしまったりすることがあります。その結果、先生が試験日を告げるなど、重要な情報を聞き逃してしまうかもしれません。

この不注意を補うために、ADHDの女の子は、自分が好きなことや得意なことに対して「過集中(ハイパーフォーカス)」することがあります。一つのことに驚くほどの努力と集中力を注ぐため、親や教師はADHDの可能性を見過ごしてしまうことがあります。この過集中は、退屈なことから気を紛らわせるための対処戦略であることもあれば、本人にもコントロールできない場合もあります。時には有利に働くこともありますが、他の重要なことへの集中を妨げる場合は問題となることもあります。

2. 見えにくい多動性のサイン

ADHDの女の子の中には、古典的な多動性のサインを示す子もいます。もし女の子が多動的であれば、「おてんば」と表現されることがあるかもしれません。じっとしているよりも体を動かすことを好み、同年代の他の女の子が楽しむようなことにはあまり興味を示さないかもしれません。

しかし、女の子のADHDにおける多動性は、もっと目立たない形で現れることもあります。例えば、絶えず何かを落書きしていたり、椅子の上でそわそわと体を動かしていたりするのも、その一例です。攻撃性、多弁さ、感情の起伏の激しさといった多動性に関連する他の行動も、ADHDの特性ではなく、単なる性格特性として誤解されることがあります。

3. コントロールが難しい衝動性

ADHDの女の子は衝動性を抱えていることがあり、非常におしゃべりになることがあります。言葉による衝動性が強く、他の人の話を遮ったり、過度におしゃべりをしたり、会話中に頻繁に話題を変えたりすることがあります。また、相手への影響を考えずに言葉を発してしまうこともあるかもしれません。

ADHDの女の子はまた、過度に敏感であることもあります。感情的で興奮しやすいと表現されることもあります。

ADHDの診断とサポート:早期発見が未来を拓く

精神科医や小児神経科医などの専門家は、ADHDの可能性を判断し、適切なサポートを開始するために必要な検査や評価を行うことができます。女の子のADHDへの対応には、行動療法、ソーシャルスキルトレーニング、学習支援、環境調整、薬物療法、カウンセリング、そして周囲の理解とサポートなどが含まれます。

専門家による診断の重要性

ADHDの診断を受けること自体が、女の子にとって大きな罪悪感や羞恥心から解放されるきっかけになることがあります。「ぼーっとしている」「やる気がない」「頭が悪い」「怠け者」といった誤ったレッテルから解放されることにもつながります。

女の子への具体的なサポート方法

  • 理解と共感を示す: ADHDは本人のせいではないことを伝え、安心感を与える。
  • 具体的な指示とフィードバック: 指示は短く明確に伝え、できたことを具体的に褒める。
  • 環境調整: 集中しやすいように静かな学習環境を整える、持ち物を整理しやすくする工夫をする。
  • 得意なことを伸ばす: 好きなことや得意なことを見つけ、自信を育む機会を作る。
  • ソーシャルスキルトレーニング: 友人関係を円滑にするためのコミュニケーションスキルを学ぶ。
  • ペアレントトレーニング: 保護者がADHDへの理解を深め、適切な関わり方を学ぶ。

ADHDは「欠点」ではない:正しい理解と自己肯定感の育成

ADHDの女の子は、決して「怠けている」わけでも「能力が低い」わけでもありません。ただ、ADHDという特性を持っているだけなのです。適切な戦略とサポートがあれば、彼女たちの生活はより過ごしやすくなり、未来はより明るいものになるでしょう。そのための第一歩は、女の子のADHDの多様なサインに気づき、理解することです。この記事が、その一助となれば幸いです。

もし、お子さんのことで心配な点があれば、まずはかかりつけ医や学校の先生、地域の相談窓口、またはADHDを専門とする医療機関に相談してみることをお勧めします。

この記事の筆者・監修者

山口さとみ (臨床心理士)

山口さとみ (臨床心理士)

臨床心理士として、多くの子どもたちや大人のADHDの方々とそのご家族のサポートをしてきました。医学的な情報だけでなく、日々の生活の中での工夫や、周囲の理解を深めるためのヒント、そして何よりも当事者の方々の声に耳を傾けることを大切にしています。このサイトを通じて、少しでも多くの方が前向きな一歩を踏み出せるような情報をお届けします。