「新しい習慣を身につけたいけど、注意がそれやすくて長続きしない…」
「やらなきゃいけないことは分かっているのに、つい忘れてしまう…」
ADHD(注意欠如・多動症)の特性を持つ方にとって、新しい習慣を生活に取り入れたり、日々のタスクをこなしたりするのは簡単なことではないかもしれません。記憶や集中、計画性に課題を感じやすく、「またできなかった…」と落ち込んでしまうこともあるでしょう。
しかし、諦める必要はありません。実は、ADHDの特性を理解し、それに合った工夫をすることで、驚くほどスムーズに習慣を身につけ、生活をより快適にすることができるのです。その強力な味方となるのが、今回ご紹介する「習慣スタッキング」というテクニックです。
この記事では、習慣スタッキングとは何か、なぜADHDを持つ方に特に有効なのか、そして具体的な実践方法や続けるためのコツを、分かりやすく解説します。この記事を読めば、あなたもきっと「これならできそう!」と感じ、新しい一歩を踏み出せるはずです。
習慣スタッキングとは? なぜADHDに有効なの?
習慣スタッキングとは、その名の通り「習慣を積み重ねる」テクニックです。具体的には、「すでに毎日行っている既存の習慣」の直後に、「新しく身につけたい習慣」を連結させるというシンプルな方法です。「ピギーバッキング(おんぶする)」とも呼ばれ、行動変容を促す戦略の一つとして知られています。
例えば、「毎朝起きたら必ず歯を磨く」という習慣がある人なら、その直後に「コップ一杯の水を飲む」という新しい習慣をくっつける、といった具合です。
では、なぜこの習慣スタッキングがADHDを持つ方に特に有効なのでしょうか?
- 既存の習慣が「リマインダー」になる: ADHDの特性として忘れっぽさがありますが、すでに行っている習慣(例:朝のコーヒー)が、次に行うべき新しい習慣(例:薬を飲む)を思い出すための強力な手がかり(キュー)となります。
- 行動の「勢い」を利用できる: 一つの行動を終えた直後は、次の行動に移りやすいという心理的な勢いが生まれます。この勢いを利用して、新しい習慣へのハードルを下げることができます。
- 意志力への依存を減らせる: 新しいことを始めるには大きな意志力が必要ですが、習慣スタッキングでは既存の習慣の流れに乗るため、意志力への負担が軽減されます。
- 記憶や集中の負担を軽減: 「何をいつやるか」を細かく記憶したり、その都度集中力を高めたりする必要が減り、行動を自動化しやすくなります。
ADHDの方は、日常生活のタスクやルーティンを整理し、維持することに困難を感じやすいと言われています。健康的な生活習慣(バランスの取れた食事、適度な運動、質の高い睡眠など)を身につけることはADHDの症状管理にも重要ですが、その習慣化自体が難しいというジレンマがあります。習慣スタッキングは、このジレンマを解消するための非常に有効なアプローチなのです。
習慣スタッキングのメリット:ADHDの困りごとをこう解決!
習慣スタッキングを生活に取り入れることで、ADHDを持つ方が抱えやすい様々な困りごとに対して、以下のような具体的なメリットが期待できます。
- 集中力の維持: 行動が連続することで、注意が散漫になる隙を与えにくくします。
- 整理整頓・計画性: 日々のタスクがルーティン化されることで、何をすべきかが明確になり、計画的に行動しやすくなります。例えば、「夕食の片付けの後には、翌日の簡単な準備をする」など。
- コミットメント(やり遂げる力): 小さな習慣の積み重ねが成功体験となり、自己肯定感を高め、目標達成への意欲を引き出します。
- 優先順位付け: 重要な習慣を既存の確実な行動に紐付けることで、後回しを防ぎ、優先的に取り組めるようになります。
- 記憶力のサポート: 前述の通り、既存の習慣が新しい習慣を思い出すきっかけとなり、忘れ物を減らしたり、やるべきことの抜け漏れを防いだりします。
- 感情のコントロール: 生活リズムが整い、やるべきことがスムーズに進むことで、焦りやストレスが軽減され、感情的な安定につながることがあります。
- ストレス軽減: 「あれもこれもやらなきゃ」という精神的な負担が減り、日々の生活がよりシンプルで管理しやすくなります。
これらのメリットは、単に新しい習慣が増えるということ以上に、生活全体の質を向上させ、ADHDの特性と上手く付き合いながら、より自分らしい充実した毎日を送るための大きな助けとなるでしょう。
ADHDでもできる!習慣スタッキングの具体的なやり方5ステップ
習慣スタッキングを始めるのは難しくありません。以下のステップに沿って、少しずつ試してみましょう。
ステップ1:身につけたい新しい習慣を決める
まず、あなたが生活に取り入れたい新しい習慣を具体的に一つ決めます。「もっと運動する」のような漠然としたものではなく、「毎朝5分間ストレッチをする」「食後に10分間ウォーキングする」など、具体的で小さな行動に落とし込みましょう。
この習慣が、あなたの生活をどのように良くするのか、どんな目標達成に繋がるのかを考えると、モチベーションが維持しやすくなります。
【習慣の例】
- ベッドから起きたら → ベッドメイキングをする
- 朝のコーヒーを淹れたら → ビタミン剤を飲む
- 昼休憩に入ったら → 短い散歩をする
- 歯を磨いたら → デンタルフロスをする
- 洗濯物を畳み始めたら → ポッドキャストを聴く
- テレビを見始めたら → 簡単なヨガやストレッチをする
- 寝る準備を始めたら → 5分間瞑想する
- 夕食の片付けが終わったら → 翌日の持ち物を確認する
- 朝、顔を洗ったら → 洗面台の周りをさっと拭く
ポイント:あなたにとって本当に役立つ、生活を豊かにする習慣を選びましょう。
ステップ2:既存の習慣と紐付ける
次に、ステップ1で決めた新しい習慣を、あなたが既に毎日(または定期的に)行っている習慣の「直後」に紐付けます。この既存の習慣は、新しい習慣の「トリガー(引き金)」となります。
【紐付けの公式】
「[既存の習慣] をしたら、すぐに [新しい習慣] をする」
例:「朝、歯を磨いたら(既存の習慣)、すぐにデンタルフロスをする(新しい習慣)」
ステップ3:時間をかけることを理解する
ここが最も根気が必要な部分かもしれません。新しい行動が本当に「習慣」として定着するには、ある程度の時間と繰り返しのコミットメントが必要です。一般的に、数週間から数ヶ月かかると言われています。焦らず、気長に取り組みましょう。
ステップ4:失敗を恐れず、受け入れる
最初のうちは、新しい習慣を忘れてしまったり、できない日があったりするかもしれません。それは誰にでも起こりうることです。大切なのは、そこで諦めずに「また明日から試そう」と再挑戦することです。完璧を目指す必要はありません。
ステップ5:準備ができたら、少しずつ積み重ねる(やりすぎないこと!)
一つの新しい習慣が比較的スムーズにできるようになってきたら(完全に無意識でなくても、思い出しやすくなってきたら)、次の新しい習慣をスタックに追加することを検討しても良いでしょう。
例えば、「朝、水を一杯飲んだら(既存)、果物を食べる(新しい習慣1)」が定着したら、さらに「果物を食べたら、使った食器をすぐに洗う(新しい習慣2)」というようにです。
ただし、一度に多くの習慣をスタックしようとしないでください。最初は一つの新しい習慣に集中しましょう。もし複数の習慣を試してみて負担に感じるようであれば、無理せず最初の習慣に戻るか、スタックする習慣の数を減らしてください。
重要なのは「どれだけ多く積み重ねるか」ではなく、「生活をより良くするために、確実に習慣を身につけること」です。
習慣化を続けるためのコツと注意点
- 小さく始める: 最初から大きな目標を立てず、ごく簡単なことから始めましょう。「毎日1時間運動する」ではなく「毎日5分だけストレッチする」など。
- 現実的な計画を立てる: あなたの生活スタイルやADHDの特性を考慮し、無理のない計画を立てることが長続きの秘訣です。
- 視覚的なリマインダーも活用する: 習慣スタッキングのトリガーに加えて、付箋やスマートフォンのリマインダーなども補助的に使うと効果的です。
- できたら自分を褒める: 小さなことでも、できたら意識的に自分を褒めてあげましょう。これがモチベーション維持に繋がります。
- 環境を整える: 新しい習慣を実行しやすくするために、必要なものをすぐ手の届く場所に置くなど、環境を工夫することも有効です。例えば、「帰宅したらすぐにジムウェアに着替える」という習慣なら、玄関の近くにジムウェアを準備しておくなど。
- 一人で抱え込まない: もし可能であれば、家族や友人に目標を共有し、応援してもらうのも良いでしょう。また、どうしても習慣化が難しい場合や、ADHDの症状で日常生活に大きな支障が出ている場合は、医師やカウンセラーなどの専門家に相談することも考えてみてください。
まとめ:習慣スタッキングで、あなたらしい毎日を
新しい習慣を身につけることは、誰にとっても簡単なことではありません。特にADHDの特性を持つ方にとっては、記憶力の問題、集中困難、計画性の課題などが加わり、さらに難しく感じられるかもしれません。
しかし、習慣スタッキングという賢いテクニックを使えば、既存の習慣をテコにして、無理なく新しい行動を生活に組み込むことができます。これは、ADHDの特性による困難を乗り越え、望ましい生活習慣を築くための強力なツールとなり得ます。
これまで色々な方法を試してもうまくいかなかったという方も、この習慣スタッキングなら、きっと新たな可能性を見いだせるはずです。大切なのは、完璧を目指さず、小さな一歩から始めること。そして、何よりも自分自身のペースで、生活をより良くしていくことを楽しむことです。
ぜひ、今日から何か一つ、小さな習慣スタッキングを試してみてはいかがでしょうか。