
「食事の準備って、なんだかすごく大変…」「気づいたら何も食べてないことがある」。もしあなたがADHD(注意欠如・多動症)の特性を持っていて、こんな風に感じることがあるなら、それはあなただけではありません。多くの方が、日々の食事に関してさまざまな難しさを抱えています。
ADHDの特性と食事の悩みは、実は深く関わっていることがあります。例えば、集中を持続させることの難しさや、計画を立てて段取りよく物事を進めることへの苦手意識、あるいは「お腹が空いた」という感覚に気づきにくいといったことが、食事の準備や規則正しい食生活を難しくする要因になることがあります。
この記事では、ADHDの特性を持つ方が食事と少しでも楽に向き合えるように、具体的なアイデアや考え方のヒントをご紹介します。完璧を目指さなくて大丈夫。「まず、食べる」ことを大切に、自分に合った方法を見つけていきましょう。
まず知っておきたい:食事に対するプレッシャー、手放しても大丈夫
私たちは日々、「健康的な食事を摂るべき」「バランスの取れた食事が理想」といった情報に囲まれています。こうした情報が、いつの間にか「ちゃんと食べなきゃ」というプレッシャーや、「良い食事・悪い食事」という思い込みにつながり、かえって食事を苦痛なものにしてしまうことがあります。
ある専門家は、「食事について最も大切なのは、まず自分に必要な量のエネルギーを摂ること。栄養バランスや多様性は、それができた上で、余力があれば考えれば良いのです」と指摘しています。また、「『ちゃんとした食事』とは、必ずしもすべての食品群が含まれている必要はありません。食事に関する固定観念やルールに縛られず、柔軟な考え方を持つことが大切です」とも述べています。
どんな食べ物も、それ自体が「良い」とか「悪い」とかいうことはありません。「まずはお腹を満たすこと」。このシンプルな考え方を、ぜひ心に留めておいてください。
ADHDの特性と「ラクちんごはん」の基準
ADHDの特性は一人ひとり異なります。料理が大好きで、複雑な調理も楽しめる方もいれば、たくさんの手順がある作業に苦手意識を感じる方もいます。
この記事で提案する「ADHDフレンドリーなラクちんごはん」の基準は、特に以下のような点に当てはまる方々を想定しています。
- 準備時間が短いこと(キッチンでの作業時間が30分以内が理想)
- 手順が少ないこと
- レシピがシンプルで分かりやすいこと
- 基本的な材料でできること
専門家の中には、その日のエネルギーレベルに合わせて食事を3つのカテゴリーに分けて考えることを提案する人もいます。
- エネルギーゼロの日:ほとんど、あるいは全く手間のかからない食事(冷凍食品、総菜、宅配など)。
- ちょっとだけエネルギーがある日:2~3種類の材料で、準備や片付けが最小限で済む簡単な食事。
- 比較的エネルギーがある日:少し手間をかけたり、新しいレシピに挑戦したりできる食事。
自分のその時々の状態に合わせて、無理のない選択をすることが大切です。
ADHDタイプ別・食事の計画と続けるコツ
食事の計画を立てるのは難しい、と感じるADHD当事者の方は少なくありません。ADHDの脳は「今」か「今じゃないか」で物事を捉える傾向があり、明日以降の食事について具体的に想像するのが難しいことがあります。
ここでは、少しでも食事の計画や準備が楽になるようなヒントをいくつかご紹介します。
1. 「いつ買い物に行くか」問題
一般的には「空腹時に買い物に行くと余計なものを買ってしまうので避けましょう」と言われますが、ADHDの特性を持つ方の中には、お腹が空いていないと「今は食べ物はいらない」と感じてしまい、何も買えないというケースもあります。かといって、空腹すぎると集中できず、何を買うべきか判断が難しくなります。自分が一番動きやすいタイミングを見つけることが大切です。少しお腹が満たされているけれど、食事への関心も持てるくらいの「中間」が良いかもしれません。
2. ルーティンは味方、でも縛られないで
もし、あなたにとってうまくいく食事のパターンやルーティンが見つかったら、それを活用しましょう。例えば、「朝は必ずパンとヨーグルト」と決めておけば、考える手間が省けます。ただし、ADHDの脳は時に予定通りに進むことを嫌うこともあります。事前に決めた献立でも、その日の気分で「これは食べたくないな」と感じることも。そんな時は、無理に計画に固執せず、簡単に変更できる選択肢をいくつか持っておくと安心です。「こうすべき」という考えに縛られず、自分が一番楽だと感じる方法を選びましょう。
ポイント:カット済みの野菜や冷凍野菜を常備しておくと、調理の手間を大幅に減らせます。自分に本当にできること、使えるエネルギー量や時間を正直に見積もることが大切です。
3. 「作り置き」は合う?合わない?
一度にたくさん作って、後で楽をする「作り置き」は魅力的な戦略です。もしこれがあなたに合うなら、ぜひ活用しましょう。しかし、同じものが続くと飽きてしまう、温め直した料理の味や食感が苦手、という方もいるかもしれません。その場合は、無理に作り置きにこだわる必要はありません。「自分は作り置きが合わないタイプなんだ」と認めて、別の方法を探すことも大切です。
ある専門家は、「食事の準備で大切なのは、自分自身に正直になること。例えば、平日に料理をする気力がないと分かっているなら、週末にまとめて準備するか、平日は手間のかからない食事にすると割り切ることが、罪悪感を減らし現実的な解決策に繋がります」とアドバイスしています。
買い物ストレスを減らす5つのヒント(例)
食料品の買い出しがストレスに感じることもありますよね。ここでは、少しでも負担を軽くするためのヒントを5つご紹介します。
- 買い物リストを作る:何を買うか事前にメモしておくだけで、店内で迷う時間が減り、買い忘れや衝動買いを防ぎやすくなります。スマートフォンのメモ機能やアプリも便利です。
- ネットスーパーや食材宅配を利用する:家で注文できて届けてもらえるサービスは、外出の負担や店内の刺激を減らしたい時に非常に有効です。
- 同じ店で買う:いつも行く店を決め、どこに何があるか把握しておくと、探す手間が省けて効率的です。
- 一度にたくさん買いすぎない:特に生鮮食品は、使い切れずに無駄にしてしまうと自己嫌悪につながることも。数日分など、管理できる量だけ買うように意識してみましょう。
- 空腹時や疲れている時を避ける(できる範囲で):判断力が鈍りやすく、つい余計なものや甘いものに手が伸びがちです。少しお腹が満たされている時や、比較的元気な時に行くのが理想です。
簡単おいしい!低労力レシピ集
ここでは、少ない手間で作れて、お腹も心も満たされる「ラクちんごはん」の具体的なレシピをご紹介します。
朝ごはん編
1. ヨーグルト&グラノーラ+フルーツ
- ADHDフレンドリーポイント:火を使わない、混ぜるだけ、栄養バランスもそこそこ◎
- 作り方:お好みのヨーグルトにグラノーラをかけ、好きなフルーツ(バナナ、冷凍ベリー、缶詰フルーツなど)を乗せるだけ。
- 専門家も推奨する定番メニュー。「準備いらずで満足感が得られます」とのこと。
2. のっけ卵ごはん・トースト
- ADHDフレンドリーポイント:前日の残り物を活用、洗い物も少ない、タンパク質も摂れる
- 作り方:昨夜の残り物(炒め物、パスタソース、煮物など)をご飯やパンに乗せ、その上に目玉焼きや温泉卵をプラス。野菜炒めにご飯と卵で即席丼、パスタソースとパンと卵で簡単シャクシュカ風などアレンジ自在。
3. スムージーまたはプロテインシェイク
- ADHDフレンドリーポイント:ミキサーにかけるだけ、野菜や果物を手軽に摂れる、冷凍保存可能
- 作り方:牛乳や豆乳、ヨーグルトをベースに、冷凍フルーツ(ブルーベリー、バナナ、マンゴーなど)、冷凍ほうれん草、プロテインパウダーなど、好きなものをミキサーへ。ピーナッツバターやチアシードを加えるのもおすすめです。
昼ごはん・夜ごはん編
1.鶏むね肉とごはんのワンパン(フライパンひとつ)調理
- ADHDフレンドリーポイント:洗い物が少ない、ほぼ放置でOK、アレンジしやすい
- 材料例:鶏むね肉(または鶏もも肉)、米、鶏ガラスープの素(またはコンソメ)、お好みの野菜(玉ねぎ、きのこ、冷凍野菜など)、お好みの調味料(醤油、みりん、塩胡椒、カレー粉など)
- 簡単レシピ:
- 鶏肉を食べやすい大きさに切り、軽く炒める(または生のままでも)。
- 洗った米、規定量の水、スープの素、細かく切った野菜をフライパン(または炊飯器)に入れる。
- 鶏肉を上に乗せ、蓋をして中火で加熱。沸騰したら弱火にして15~20分炊き、その後10分蒸らす。(炊飯器の場合は通常通り炊飯)
- 仕上げにお好みの調味料で味を調える。
2. 速攻パスタ
- ADHDフレンドリーポイント:茹でて和えるだけ、10分程度で完成、バリエーション豊富
- 作り方:お好みのパスタを茹で、市販のパスタソースと和えるだけ。ツナ缶やきのこ、冷凍ほうれん草などを加えればボリュームもアップ。冷凍ミートボールやソーセージをプラスするのも手軽です。
3. ほったらかし煮込み(スロークッカーや電気圧力鍋で)
- ADHDフレンドリーポイント:材料を入れてスイッチオン、一度にたくさん作れる(作り置きが合う人向け)
- 例:簡単カレーやシチュー、鶏肉のトマト煮込みなど
- 材料例(カレー):お好みの肉(鶏肉、豚肉など)、玉ねぎ、じゃがいも、人参、カレールー、水
- 作り方:材料をカットして鍋に入れ、水を加えてスイッチオン。あとは機械におまかせ。
- 元の記事ではチリコンカンが紹介されていましたが、より日本の家庭で作りやすいメニューを提案しました。
4. 冷凍食品フル活用プレート
- ADHDフレンドリーポイント:揚げるだけ・焼くだけ・レンジでチン、手間ゼロに近い
- 作り方:冷凍の唐揚げやハンバーグ、白身魚フライ、冷凍野菜(ブロッコリー、ほうれん草など)、冷凍ポテトなどを組み合わせてワンプレートに。罪悪感は不要!頼れるものは頼りましょう。
5. ごはんと豆の簡単煮込み
- ADHDフレンドリーポイント:材料少なめ、栄養も摂れる、缶詰活用
- 作り方:鍋に水、洗った米、ミックスビーンズ缶(水煮)、トマト缶(ダイスカット)、コンソメ(または和風だし)を入れ、米が柔らかくなるまで煮る。お好みでツナ缶やきのこ、コーンなどを加えても。
- 専門家も「シンプルで栄養価が高く、アレンジも効く」と勧めるメニューです。
おやつ・間食編
1. チップス&ディップ
- ADHDフレンドリーポイント:準備ゼロ、手軽に満足感
- アイデア:お好みのポテトチップスやトルティーヤチップスに、サルサソース、アボカドディップ、チーズディップなど、市販のディップを添えて。
2. 個包装のお菓子や軽食
- ADHDフレンドリーポイント:持ち運びしやすい、量を調整しやすい
- アイデア:個包装のせんべい、クッキー、グミ、ゼリー、チーズ、ナッツ、栄養補助バーなど。カバンにいくつか入れておくと、外出先で空腹を感じた時に役立ちます。
3. カット済みフルーツ・野菜
- ADHDフレンドリーポイント:皮むきやカットの手間なし、すぐに食べられる
- アイデア:スーパーやコンビニで売っているカットパイン、カットメロン、ミニトマト、きゅうりのスティックなど。
- 「お腹が空いた時やエネルギーがない時に、すぐに食べられるので便利」と専門家も推奨しています。
コンビニ・市販品も、かしこく味方に
どんなに簡単なレシピでも、「作る気になれない…」という日は誰にでもあります。そんな時は、無理せずコンビニのお弁当やお惣菜、冷凍食品、レトルト食品、テイクアウトなどを活用しましょう。大切なのは、自分を責めずに「今はこれに頼ろう」と割り切ることです。
予算が許す範囲で、以下のようなものを常備しておくと安心です。
- 冷凍パスタ、冷凍うどん、冷凍チャーハン、冷凍ピザ
- レトルトカレー、レトルト丼の具
- パックごはん、缶詰(サバ缶、ツナ缶、コーン缶など)
- インスタントスープ、味噌汁
エネルギーがない時のために、「これなら食べられる」というお助けリストを作っておくのも良いでしょう。
最後に:一番大切なのは「自分を大切にすること」
ADHDの特性からくる実行機能の難しさ、注意の移りやすさ、内的受容感覚の鈍さなどにより、食事の準備や健康的な食生活の維持に困難を感じる方は少なくありません。時にはそれが摂食に関する問題につながることもあります。
でも、幸いなことに、味を犠牲にすることなく、ほんの少しの労力で作れる食事はたくさんあります。そして、手間のかからない食事を必要とすることに、何も恥ずかしさを感じる必要はありません。「まずはお腹を満たすこと、食べられるものを食べること」――この言葉に年齢制限はありません。
この記事でご紹介したアイデアが、あなたの毎日の食事が少しでも楽になるための一助となれば幸いです。完璧を目指さず、今日の自分にできることから、小さな一歩を踏み出してみてくださいね。