一度は利用を終えたり、途中で辞めてしまったりした就労移行支援。

「もう一度あのサービスを使って、今度こそ就職したい」 「でも、一度辞めた自分がまた戻ってもいいんだろうか…」 「もし断られたら、もう行く場所がなくなってしまうのでは?」

様々な事情から就労移行支援の再利用(2回目の利用)を考えたとき、このような不安やためらい、そして少しの気まずさを感じるのは、決してあなただけではありません。それは、ご自身のキャリアと真剣に向き合っているからこそ生まれる、ごく自然な感情です。

結論からお伝えします。就労移行支援は、定められた条件を満たせば再利用することが可能です。

この記事では、あなたが抱えるあらゆる疑問や不安を「具体的な知識に裏打ちされた安心」に変え、次の一歩を踏み出すための完全なロードマップを提供します。

  • 再利用できるかの公式な条件
  • 一番気になる「費用」の詳細(約9割が無料の理由も解説)
  • 具体的な申請の4ステップ
  • もし認められなかった場合の「他の選択肢」
  • 今度こそ失敗しないための「事業所選び実践チェックリスト」

この記事を読み終える頃には、再利用への漠然とした不安は消え、ご自身に合った最善の選択をするための知識と自信が身についているはずです。

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就労移行支援の再利用が認められる公式な条件

就労移行支援の再利用は、「戻りたい」という気持ちだけで無条件にできるわけではありません。これは障害者総合支援法に基づく公的な福祉サービスのため、いくつかのルールが定められています。しかし、決してハードルが高すぎるわけではないので、まずは3つの基本を理解しておきましょう。

原則は「市区町村がその必要性を認めること」

最も重要な原則は、あなたがお住まいの市区町村の担当部署(障害福祉課など)が、「再び就労移行支援のサービスを利用する必要がある」と客観的に判断することです。

一度サービスを離れた後、

  • 就職活動がうまくいかなかった
  • 体調や障害の状況に変化があった
  • 一度就職したが、残念ながら離職してしまった
  • 改めて専門的なサポートを受け、自分に合う仕事を見つけたいという明確な意思がある

上記のような状況を面談などで具体的に説明し、サービスの必要性が高いと判断されれば、再利用が認められる可能性は十分にあります。

【要確認】標準利用期間(原則24ヶ月)の残りがあるか?

就労移行支援を利用できる期間は、原則として合計で最大24ヶ月(2年間)と定められています。これは「標準利用期間」と呼ばれます。

基本的な考え方は、この24ヶ月の残り期間分を再利用できる、というものです。

  • 【例1】 以前の利用期間が10ヶ月 → 残りの14ヶ月が利用可能
  • 【例2】 以前の利用期間が24ヶ月 → 原則として、標準利用期間を使い切っているため再利用は難しい

まずは、ご自身が以前どのくらいの期間サービスを利用したかを確認してみましょう。もし分からなければ、以前利用していた事業所や市区町村の窓口で確認することができます。

【例外】利用期間がリセットされるケースもあります

原則は通算24ヶ月ですが、例外もあります。

市区町村の審査により特別な事情があると判断された場合には、利用期間がリセットされ、再び最大24ヶ月の利用が認められることがあります。

これは法律で明確に定められているわけではなく、あくまで市区町村の個別判断となりますが、一般的には以下のようなケースで認められる可能性があります。

  • 一度就職して一定期間(例:半年以上など)働いた後に、やむを得ず退職した場合
  • 体調の悪化などを理由に、医師が「再度の専門的な支援が必要」と判断する診断書を提出した場合

「自分は当てはまるかも?」と思ったら、諦めずに市区町村の担当窓口へ相談してみる価値は十分にあります。


【最重要】就労移行支援の再利用にかかる費用は?

再利用を検討する上で、経済的な負担は最も気になる点だと思います。ご安心ください。費用に関する心配はほとんどいりません。

結論:約9割の方が自己負担0円で利用しています

驚かれるかもしれませんが、厚生労働省の調査によると、就労移行支援の利用者の約9割は、自己負担なく無料でサービスを利用しています。

これは、就労移行支援が公的な福祉サービスであり、費用の9割を国と自治体が負担し、利用者の自己負担は原則1割となっているためです。さらに、その1割の負担にも世帯の収入状況に応じた上限額が定められているため、多くの方が結果的に0円となっています。

自己負担額が決まる仕組み【所得区分】

自己負担の上限月額は、前年の世帯所得(正確には市町村民税の課税状況)によって、以下の通り区分されています。

区分世帯の収入状況負担上限月額
生活保護生活保護受給世帯0円
低所得市町村民税非課税世帯0円
一般1市町村民税課税世帯(所得割16万円未満)※9,300円
一般2上記以外37,200円

※入所施設利用者(20歳以上)、グループホーム利用者は除く。出典:厚生労働省「障害者の利用者負担」

この表の通り、市町村民税が非課税の世帯の方は、どれだけサービスを利用しても自己負担は0円です。課税世帯(一般1)であっても、月の負担は最大で9,300円となります。

また、事業所や自治体によっては、交通費や昼食代の補助制度を設けている場合があります。金銭的な不安がある方は、利用したい事業所の見学・相談時に遠慮なく確認してみましょう。


就労移行支援を再利用するための具体的な4ステップ

では、実際に再利用を申請する場合、どのような手順を踏めばよいのでしょうか。基本的な流れを4つのステップで解説します。

ステップ1:利用したい事業所に相談する

まずは、再利用を希望する就労移行支援事業所に連絡を取り、相談することから始めましょう。以前と同じ事業所(出戻り)でも、新しい事業所でも構いません。

ここで大切なのは、「過去に利用経験があること」と「なぜ、もう一度利用したいのか」を正直に伝えることです。事業所のスタッフはあなたの状況を理解し、受け入れの可否や今後の手続きについて親身にアドバイスをくれます。

ステップ2:お住まいの市区町村の障害福祉担当窓口へ相談

事業所との相談と並行して、お住まいの市区町村の障害福祉担当窓口へも必ず相談に行きましょう。再利用の必要性を最終的に判断するのは市区町村のため、このステップは非常に重要です。

窓口では、「1回目の利用では〇〇という課題が残ったため、2回目は△△というスキルを身につけたい」というように、過去の反省と未来への具体的な計画を伝えることがポイントです。

ステップ3:申請書類の提出と「サービス等利用計画」の作成

市区町村からの案内に従って、サービスの利用申請に必要な書類を提出します。一般的には支給申請書や障害者手帳などが必要ですが、自治体によって異なるため必ず確認してください。

また、この段階で「サービス等利用計画案」の提出を求められることがほとんどです。これは、今後の目標や希望する支援内容をまとめた計画書のことで、多くの場合、指定特定相談支援事業所の相談支援専門員が作成をサポートしてくれます。

ステップ4:支給決定と利用開始

提出された書類や面談の内容をもとに市区町村が審査を行い、サービスの必要性が認められると「支給決定」となります。その後、新しい「障害福祉サービス受給者証」が発行されます。

この受給者証が手元に届けば、事業所との正式な契約を結び、サービスの再利用を開始することができます。


再利用が認められない・難しいケースと、その場合の選択肢

万が一、再利用が認められなかったらどうしよう…と不安に思うかもしれません。ここでは、正直に「難しい可能性のあるケース」と、その場合に考えられるセーフティネット(代替案)をご紹介します。

再利用が難しい可能性のあるケース

  • 標準利用期間(24ヶ月)や、市区町村が認める延長期間を完全に使い切っている。
  • 自治体独自の判断基準により、複数回の利用を原則として認めていない方針である。
  • 面談などで、再利用の必要性や就労への意欲が低いと判断されてしまった。

最終的な判断は市区町村が行うため、一概には言えませんが、上記のようなケースはハードルが上がる可能性があります。

もし再利用が認められなかった場合の4つの選択肢

たとえ再利用が叶わなくても、あなたのキャリアが終わるわけでは決してありません。他にも多様なサポートがあります。

  1. 就労継続支援(A型・B型) 就労移行支援との大きな違いは、実際に働きながら訓練を受け、給与や工賃が支払われる点です。すぐに一般企業で働くことに不安がある場合の選択肢となります。
  2. ハローワークの職業訓練(ハロートレーニング) 国が実施する公的な職業訓練制度です。IT、介護、デザインなど、多種多様なスキルを無料で(テキスト代などは自己負担)学ぶことができます。
  3. 障害者就業・生活支援センター 就労と生活の両面から、一体的なサポートを受けられる身近な相談機関です。仕事探しだけでなく、生活習慣の安定などについても相談できます。
  4. 障害者向け転職エージェント 専門のキャリアアドバイザーが、あなたのスキルや障害特性に合った求人を紹介し、応募書類の添削から面接対策まで、就職活動をマンツーマンで支援してくれます。

再利用が難しいと分かった時点で、これらの選択肢について市区町村の窓口や事業所に相談してみましょう。


【実践チェックリスト】今度こそ失敗しないための事業所選び

再利用にあたり、「以前と同じ事業所に戻るか、新しい事業所を探すか」は大きな悩みどころです。この選択に失敗しないため、以下のチェックリストを使ってご自身の考えを整理してみてください。

□ 1. 1回目の利用の振り返り(自己分析)

  • [ ] なぜ前回の利用を中断、あるいは就職後に離職してしまったのか?(原因を正直に書き出す)
  • [ ] 前の事業所のプログラムで、自分に合っていた点・合わなかった点は何か?
  • [ ] 人間関係(スタッフ、他の利用者)で、課題やストレスはなかったか?

▶︎ポイント:この自己分析が、次の一歩の土台になります。もし原因が前の事業所にあるなら、新しい環境を検討すべきかもしれません。

□ 2. 支援内容とプログラムの適合性

  • [ ] 自分の障害特性(発達障害、精神障害など)への専門的な理解や支援実績があるか?
  • [ ] 次に身につけたいスキル(PCスキル、コミュニケーション訓練、専門職の技術など)を学べるか?
  • [ ] 在宅での利用は可能か?(体調に応じて通所と組み合わせたい場合)

▶︎ポイント:「なんとなく」ではなく、「このスキルを身につけるため」という明確な目的意識を持つことが成功の鍵です。

□ 3. 実績とサポート体制の信頼性

  • [ ] 就職率だけでなく、就職後6ヶ月以上の「職場定着率」を公開しているか?
  • [ ] どのような企業・職種への就職実績が多いか?(自分の希望と合っているか)
  • [ ] 専門資格(社会福祉士、精神保健福祉士など)を持つスタッフが在籍しているか?

▶︎ポイント:「就職」をゴールにせず、「働き続ける」ことまでサポートしてくれるかが、質の高い事業所を見極める重要な指標です。

□ 4. 環境と通いやすさ

  • [ ] 事業所の雰囲気(利用者の年齢層、活気、静けさなど)は自分に合いそうか?
  • [ ] 無理なく通い続けられる場所か?(交通費、ラッシュ時の混雑なども考慮)

▶︎ポイント:必ず複数の事業所を見学・体験利用しましょう。パンフレットだけでは分からない「空気感」が、想像以上に重要です。


就労移行支援の再利用に関する「よくある質問(Q&A)」

最後に、再利用を検討する方が抱きがちな細かい疑問にお答えします。

Q. 以前利用していた時の「障害福祉サービス受給者証」は、そのまま使えますか?

A. いいえ、使えません。1回目の利用を終えた(あるいは中断した)時点で受給者証の効力は失効しているため、再利用にあたっては、市区町村の窓口で改めて利用申請を行い、新しい受給者証を発行してもらう必要があります。

Q. 再利用の申請で、市区町村の担当者に何を伝えれば最も重要ですか?

A. なぜもう一度サービスを利用したいのか、その「客観的な必要性」を具体的に説明することが最も重要です。「1回目の利用では〇〇が課題だったので、2回目は△△を学び、□□という職種を目指したい」のように、過去の反省と未来への具体的な計画を明確に伝えましょう。

Q. 就労移行支援の利用中に、生活費のためにアルバイトをすることはできますか?

A. 原則としてできません。 就労移行支援は、一般就労を目指すための訓練期間と位置づけられており、利用中は「就労していない」状態であることが前提となります。ただし、自治体によっては個別の事情を考慮して許可するケースも稀にありますので、必ず事前に事業所や市区町村の窓口に確認・相談してください。無断でアルバイトをすると、サービスの利用停止につながる可能性があります。


まとめ:再利用は「後退」ではなく、未来への「戦略的な一歩」です

就労移行支援の再利用を考えるとき、「一度失敗してしまった」「周りからどう見られるだろう」といったネガティブな感情が湧いてくるかもしれません。

しかし、どうかそのように捉えないでください。

一度立ち止まり、自分を見つめ直し、そして再び前に進むために専門家のサポートを求めることは、決して「後退」ではありません。それは、あなたの「働きたい」という目標を達成するための、非常に賢明で「戦略的な一歩」です。

この記事で解説した通り、就労移行支援の2回目の利用は制度として認められており、実際に多くの方が再利用を経て、自分らしい働き方を実現しています。

あなたが次の一歩を踏み出すための情報は、すべてここにあります。

まずは、ほんの少しの勇気を出して、気になる事業所や市区町村の窓口に「再利用の相談をしたいのですが…」と電話をかけてみませんか。その一本の電話が、あなたの未来を切り拓く、確かなきっかけになるはずです。